第1章 残業代請求に関する最近の動き
第1 残業代請求を促す広告の出現 2
1 法律事務所と広告 2
2 キーワード広告の掲載 3
3 残業代請求に関する専門サイトの出現 4
4 今後はさらに拡大する? 4
第2 弁護士側の事情 6
1 弁護士業界の変動 6
(1) 弁護士数の増加 6
(2) 過払いバブルの崩壊 9
2 残業代請求がねらわれる根拠 10
(1) 勝訴の見込みが高いこと 10
(2) 回収見込みが相対的に高いこと 11
(3) 事務処理のルーティン化が比較的容易なこと 12
(4) 労働審判制度による早期解決が図れること 13
(5) 個人を対象とするほうが反響が見込めること 14
3 ま
と め 15
第3 労働者側の事情 16
1 終身雇用の崩壊 16
2 情報の拡散 17
3 生活の困窮 17
4 長時間労働問題 18
5 労働審判制度による早期解決への期待 18
6 ま
と め 19
第4 今後の展望 20
第2章 訴訟における攻防
第1 民事訴訟に関する基本的ルール 24
1 はじめに 24
2 要件事実~裁判所の判断枠組み~ 24
3 弁論主義~当事者の自己責任~ 25
(1) 主張責任 26
(2) 争いのない事実はそのまま判決の基礎になる 26
(3) 職権証拠調べの禁止 26
4 立証責任 26
(1) 立証責任とは 26
(2) 立証責任の分配 28
5 請求原因・抗弁・再抗弁 29
6 認 否 30
(1) 認否の重要性 30
(2) 理由付け否認 30
7 裁判書式サンプル 31
(1) 裁判所に提出する書面について 31
【書式サンプル】訴状
① 訴状における留意点 35
【書式サンプル】答弁書
② 答弁書における留意点 40
第2 原告が主張・立証すべき事実 42
1 請求原因事実 42
2 使用者側からの反論(理由づけ否認) 43
反論パターン:契約関係は雇用契約ではなく、労基法の適用はないから時間外手当の支払義務はない
反論理由 44
反論を行ううえでのポイント 44
【判例】横浜南労基署長(旭紙業)事件(最高裁平成8年11月28日判決 労判714号14頁)
【判例】クラブ「イシカワ」(入店契約)事件(大阪地裁平成17年8月26日判決
労判903号83頁)
【判例】国・千葉労基署長(県民共済生協普及員)事件(東京地裁平成20年2月28日判決
労判962号24頁)
反論パターン:基準賃金が異なる
反論理由 52
反論を行ううえでのポイント 52
1 賃金の部分について 54
1) 家族手当、通勤手当等 54
【判例】壺阪観光事件(奈良地裁昭和56年6月26日判決
労判372号41頁)
2) 臨時に支払われた賃金、1カ月を超える期間ごとに支払われる賃金 56
【判例】淀川海運事件(東京地裁平成21年3月16日判決
労判988号66頁)
3) 年俸制における賞与 57
【判例】システムワークス事件(大阪地裁平成14年10月25日判決
労判844号79頁)
4) 合意による除外 58
2 所定労働時間の部分について 58
反論パターン:割増率が異なる
反論理由 60
法律知識の整理 60
1 割増賃金 60
1) 個別合意、就業規則、労基法の関係 60
2) 労基法における定め 61
① 割増賃金の支払いが必要な場合 61
② 法内残業 61
③ 休日労働 62
2 割
増 率 63
1) 原 則 63
2) 重複する場合の処理 63
3) 改正労基法~月60時間以上時間外労働に対する割増率 63
① 起算日に関する定めの重要性 64
② 法定休日と法定外休日の明確化の重要性 64
③ 中小企業への適用猶予 64
④ 代替休暇制度 65
反論を行ううえでのポイント 66
1 割増率に関する事実が異なる場合 66
2 不払いの合意について 66
3 改正労基法に関する争点~起算日等について 66
4 改正労基法に関する争点~60時間を超過していないという反論について 67
5 改正労基法に関する争点~「中小企業である」、「代替休暇を付与した」等の反論をする場合 67
① 中小企業であるという主張について 67
② 代替休暇付与の主張について 68
反論パターン:主張している労働時間は実際とは異なる
反論理由 69
法律知識の整理 69
1 労働時間とは 69
1) 労働時間の始期 71
① 通勤時間 71
② 始業時刻前の準備作業時間等 72
2) 労働時間の終期 72
3) 休憩、手待ち時間 73
4) その他の問題点 73
① 研修・昇進試験 73
② 持ち帰り残業 74
③ 出張の際の移動時間 74
反論を行ううえでのポイント 75
1 原告の主張する労働時間は信用性がないという反論について 75
1) タイムカードによる時間管理がされている場合 75
2) 労働時間を推認させる客観的証拠が存在する場合 76
3) メモ等に基づき請求がなされている場合 77
2 法的評価を巡る反論について 79
3 休憩時間か否かを巡る反論について 79
1) 就業規則等で休憩とされている場合について 80
※ 仮眠時間・不活動時間 81
2) 規則に定めのない休憩について 81
【判例】山本デザイン事件(東京地裁平成19年6月15日判決
労判944号42頁)
【判例】大虎運輸事件(大阪地裁平成18年6月15日判決
労判924号72頁)
反論パターン:残業を命じていないので労働時間ではない
反論理由 85
反論を行ううえでのポイント 85
1 黙示の指示 85
2 残業禁止命令 86
【判例】神代学園ミューズ音楽院事件(東京高裁平成17年3月30日判決
労判905号72頁)
【判例】大林ファシリティーズ事件(最高裁平成19年10月19日判決
労判946号31頁)
3 残業許可制 91
3 付加金について 93
(1) 付加金とは 93
(2) 付加金の発生 93
(3) 付加金と遅延損害金 95
(4) 付加金についての裁判例の傾向 96
① 一部の支払いを命じたもの 96
② 支払いを命じなかったもの 97
第3 被告が主張・立証すべき事実 99
1 抗弁事実 99
2 権利の発生を妨げる抗弁 100
反論パターン:管理監督者である
反論理由 101
法律知識の整理 101
1 適用除外事項について 101
2 管理監督者とは 103
1) 判断基準 103
2) 管理監督者性を肯定した裁判例 104
【判例】医療法人徳州会事件(大阪地裁昭和62年3月31日判決
労判497号65頁)
【判例】日本プレジデントクラブ事件(東京地裁昭和63年4月27日判決
労判517号18頁)
【判例】姪浜タクシー事件(福岡地裁平成19年4月26日判決
労判948号41頁)
【判例】日本ファースト証券事件(大阪地裁平成20年2月8日判決 労経速1998号3頁)
3) 管理監督者性を否定した裁判例 111
4) 裁判例の分析~判断基準について 115
① 管理監督者は労基法の定める例外であることを正面から捉えた判断が行われていること 116
② 割合に関する指摘 117
③ 一般従業員との対比に関する指摘 118
④ 昇進の前の職務権限・待遇との対比の指摘 119
⑤ 小 括 120
5) 裁判例の分析~該当性に関する具体的事情の分析 120
① 権限に対する評価~最終的な権限があるか否か 121
② 権限への制約があるか否か 121
③ 会議への参加 122
④ 出退勤の自由 123
⑤ 待 遇 123
6) 行政通達 124
7) 管理監督者と深夜労働 128
【判例】ことぶき事件(最高裁平成21年12月18日判決
労判1000号5頁)
8) 深夜割増賃金を賃金に含む取扱いについて 130
反論を行ううえでのポイント 131
反論パターン:機密事務取扱者である
反論理由 132
法律知識の整理 132
機密事務取扱者について 132
反論を行ううえでのポイント 133
反論パターン:監視労働、断続的労働である
反論理由 134
法律知識の整理 134
1 監視労働、断続的労働について 134
2 行政官庁の許可について 135
反論を行ううえでのポイント 135
反論パターン:事業場外みなし労働の対象者である
反論理由 137
法律知識の整理 137
1 事業場外みなし労働時間制の要件 137
【判例】光和商事事件(大阪地裁平成14年7月19日判決
労判833号22頁)
2 事業場外みなし労働時間制の効果 140
3 一部内勤がある場合の事業場外労働 141
反論を行ううえでのポイント 142
反論パターン:裁量労働の対象者である
反論理由 143
法律知識の整理 143
1 専門業務型裁量労働制 143
1) 対象業務 143
2) 要 件 144
3) 効 果 145
2 企画業務型裁量労働制 145
1) 対象事業場 145
2) 実施までの流れ 146
3) 効 果 146
反論を行ううえでのポイント 146
反論パターン:変形労働時間が適用される
反論理由 148
法律知識の整理 148
1 1カ月単位の変形労働時間制 148
1) 要 件 149
【判例】大星ビル管理事件(最高裁平成14年2月28日判決
労判822号5頁)
2) 労働時間の変更について 152
3) 1カ月単位の変形労働時間制の場合の時間外労働 152
反論を行ううえでのポイント 156
3 権利の消滅を基礎づける抗弁 157
反論パターン:消滅時効が完成している
反論理由 157
反論を行ううえでのポイント 157
再抗弁 時効中断 158
1 時効中断に関する規定 158
2 催告について 159
1) 催告の方法 159
2) 到達する必要があること 160
3) 回答の猶予を求めた場合 160
再抗弁 権利濫用 161
その他の留意点 162
1)不法行為構成について 162
2)債権法改正について 162
反論パターン:基本給に含まれる
反論理由 163
法律知識の整理 163
1 固定残業代制度について 163
2 歩合給を支給している 164
3 年俸制である 165
反論を行ううえでのポイント 165
1 区別されていない場合について 165
【判例】モルガン・スタンレー・ジャパン事件(東京地裁平成17年10月19日判決
労判905号5頁)
2 深夜割増賃金について 169
反論パターン:手当に含まれる
反論理由 171
【判例】関西ソニー販売事件(大阪地裁昭和63年10月26日判決
労判530号40頁)
反論を行ううえでのポイント 172
【判例】 東和システム事件(東京高裁平成21年12月25日判決
労判998号5頁)
その他の留意点~時間外手当に相当する部分の特定 176
反論パターン:賃金請求権を放棄している
反論理由 177
【判例】シンガー・ソーイング・メシーン・カムパニー事件(最高裁昭和48年1月19日判決
判タ289号203頁)
【判例】北海道国際航空事件(最高裁平成15年12月18日判決
労判866号14頁)
不支給の合意について 180
反論を行ううえでのポイント 181
4 遅延損害金請求に対する抗弁 183
反論パターン:支払わないことについては合理的理由がある(遅延損害金の利率について)
反論理由 183
1 「合理的な理由」とは 185
2 合理的理由が認められた場合の利率 186
反論を行ううえでのポイント 186
第4 証拠について 187
1 想定される証拠 187
2 手持ち証拠の開示について 188
【判例】松屋フーズ事件(東京地裁平成17年12月28日判決
労判910号36頁)
第3章 残業代請求への対策と留意点
第1 現状の分析 192
第2 対策の基本的留意点 194
1 便利な抜け道はない 194
2 対策によってかえってリスクを拡大しないように注意する 195
(1) 制度設計上のリスク 195
(2) 従業員との関係でのリスク 196
3 労働条件の不利益変更の問題に注意する 196
第3 残業代請求への対策 197
1 労働時間を把握しコントロールする 197
(1) 労働時間を管理する 197
① タイムカードによる労働時間把握の際の留意点 198
ⅰ 打刻時間と労働時間の関係 198
ⅱ 虚偽打刻・打刻忘れを理由とする懲戒処分 200
ⅲ 打刻忘れを欠勤扱いとすることの可否 201
ⅳ 打刻忘れに対する減給処分 202
② 労働時間の自己申告を巡る問題 202
③ 労働時間の中断に関する証拠の確保 203
(2) だらだら残業を防止する 204
① だらだら残業のリスク 204
② 社内に残っている理由の分析 204
③ 残業許可制と許可のない場合の残業の禁止を徹底する 206
ⅰ 制度設計上のポイント 206
ⅱ 具体的制度設計例 207
【書式サンプル】残業禁止命令(通知)
【書式サンプル】注意書面
ⅲ 管理職への趣旨の徹底 209
ⅳ 就業規則等の整備 209
【書式サンプル】就業規則(残業禁止命令に関する部分)
④ 所定労働時間内における集中した労働を実現する 210
(3)労働時間の認定を的確に行う 211
2 労基法上認められている制度の実施 211
※ 管理監督者に関する注意点 214
3 時間外手当の支払いと賞与による総人件費の調整 215
(1) 人件費の分析 216
(2) 賞与の請求権が発生するためには 217
① 就業規則の定めによる判断 217
② 慣行による請求権発生の主張について 219
4 自由意思に基づく請求権の放棄 220
(1) 合意書作成の重要性 220
【書式サンプル】和解合意書
(2) 合意書作成上の注意点 221
① 合意書作成に至った経緯を明示する 222
② 従業員のメリットは何かを明示する 223
③ 損害賠償請求権を留保する 223
④ 包括的清算条項とする 223
(3) 合意が無効とされた場合の対応 224
5 証拠の確保 224
(1) 訴訟を見据えた証拠の確保の重要性 224
(2) 就業規則の周知について 225
第4 労働条件の変更について 227
1 合意による変更 228
(1) 合意による変更 228
(2) 黙示の同意の主張について 229
(3) 錯誤無効の主張について 229
(4) 就業規則との関係 230
2 就業規則の改定による変更 230
(1) 判例法理と労契法10条 230
(2) 賃金体系の変更に関する裁判例 231
① 合理性を肯定したもの 232
② 合理性を否定したもの 234
(3) 就業規則を改定するにあたっての留意点 236
① 変更の必要性 236
② 代償措置・経過措置 237
③ 労働組合等との交渉経過について 237
第4章 実際に請求を受けた場合の対応
第1 残業代請求を受ける場合の流れ 241
第2 内容証明を受領した段階の留意点 243
1 内容証明郵便 243
【書式サンプル1】内容証明郵便(請求書)
〔別紙〕請求金額計算書
【書式サンプル2】内容証明郵便(通知書)
2 チェックポイント1:支払時期について 248
【書式サンプル3】回答書
3 チェックポイント2:請求額について 249
(1) 消滅時効期間の請求の有無 250
① サンプルの検討 250
② いつ消滅時効が完成するのか 250
③ 消滅時効援用の意思表示 251
(2) 元金だけか、遅延損害金を含むか 252
① サンプルの検討 252
② 遅延損害金の利率は適法か 252
(3) 計算根拠の送付の有無 253
4 チェックポイント3:作成名義 254
5 資料送付要請への対応 254
第3 交渉における留意点 256
1 支払金額の減額と他者への波及防止のバランス 256
2 事前に十分な準備を行っておく 256
3 債務承認に注意 257
第4 裁判所からの呼出状受領時の留意点 258
1 労働審判を起こされた場合の留意点 258
(1) 訴訟と労働審判の異同 258
① 個別の労働紛争のみを対象としている 258
② 裁判官の他に労働審判員が入って3人で判断する 259
③ 原則として3回以内の期日で判断がなされる 259
④ 法廷ではなく労働審判専用の部屋で、非公開で行われる 259
⑤ 主張については書面のやりとりではなく、口頭でのやりとりを基本とする 260
⑥ 話合いで合意できない場合には、判決ではなく労働審判が言い渡され、不服の場合、異議を申し立てることによって訴訟に移行する 260
⑦ 複雑な事案では訴訟に移行する場合もある 260
⑧ 話合いを基本とした手続きであること 261
(2) 労働審判への対応 261
2 少額訴訟を提起された場合の対応 262
(1) 少額訴訟の特徴 262
① 対象事件 262
② 利用回数 262
③ 一期日での審理 262
④ 証拠調べの制限 263
⑤ 反訴の禁止 263
⑥ 通常訴訟への移行 263
⑦ 支払猶予等の特別な判決 264
⑧ 控訴の禁止 264
(2) 少額訴訟対応の留意点 265
第5 和解合意書作成時の留意点 266
1 合意書作成の意義 266
2 和解合意書のサンプル 267
3 作成上の留意点 267
(1) 和解の範囲は書面上で明確にする 267
【書式サンプル】和解書
(2) 金銭支払いの名目は「解決金」にする 270
(3) 円満条項・守秘義務条項 270
(4) 清算の範囲 271
4 労働者の誓約書による場合 272
【書式サンプル】誓約書
5 違約金を入れることはできないか? 274