海外取引先への支払金は源泉徴収対象
令和5年8月15日裁決
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インドの法人3社と取引していた日本法人が、3社に対し取引の代金を支払ったところ、原処分庁から日印租税条約規定の「技術上の役務に対する料金」に該当するため、源泉徴収が必要になるとして課税処分された。審判所はいずれも技術上の役務に対する料金に該当するとした上で、うち1社に対する支払金に係る源泉所得税額を原処分庁がグロスアップ計算により算出したことについては不適切と判断した。
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Xは、家電や住宅設備をスマホのアプリから操作するサービスを主要事業とする法人である。
Xは、それぞれインド共和国の法人であるA社(出資持分の99.9%をXが保有するLLP)、B社、C社との間で取引を行っていたが、各社に対する支払金について、源泉所得税を徴収せず期限までに納付しなかった。
令和4年5月付で原処分庁は、各支払金が日印租税条約12条4項規定の「技術上の役務に対する料金」に該当し、国内源泉所得とみなされる等として、Xに対し源泉所得税の納税告知処分及び不納付加算税の賦課決定処分をした。
Xはこの処分を不服として、審査請求を行った。
Xは、
(1) A社はXの支店的な存在であり、A社への支払金はその維持・管理に必要な資金の送金又は給与である
(2) XとB社との契約上、支払金はソフトウエアの譲渡対価である
(3) C社からの成果物は、プログラミング等の専門的知識を必要としない、「技術上の役務」には当たらないデザイン等のみであった
等として、3社への各支払金はいずれも「技術上の役務に対する料金」には該当しないと主張した。
審判所は、Xと3社間の契約の詳細や取引の実態を精査した上で、
(1) インド法上、A社はXとは別個の法的主体であり、かつ、実態としてXと協働してソフトウエア開発業務を行っていると認められる
(2) XとB社との契約は、Xがソフトウエアの開発支援を依頼し、依頼を受けたB社は開発に関して定義された範囲の業務を行い、対価の最終支払までに開発したソフトウエアをXに引き渡す旨定めた契約である
(3) 仮にXの主張するとおりC社から十分な成果物が納品されなかったとしても、XはC社からウェブサイトやアプリに関する専門知識なしにはできない役務の提供を受けたといえる
ことから、3社への支払金はいずれも「技術上の役務に対する料金」に該当すると認定。Xの主張を大筋で斥けた。
ただし、原処分庁による、B社に対する源泉徴収の対象となる支払金額の算出の際、グロスアップ計算(源泉徴収対象支払額が税引手取額で定められている場合に、税引手取額を税込みの金額に逆算し、源泉徴収税額を計算する方式。所基通181~223共-4)を用いていることについては、XとB社の契約の条項は契約履行に際し契約違反や第三者からの訴訟等に備えて盛り込まれる条項に過ぎず、Xが源泉所得税を負担することを合意したものとは認められないことから、グロスアップ計算を用いることはできないとして、Xが真に納めるべき税額を再計算。原処分の一部を取り消した。