公正妥当な会計処理の基準判定をめぐり処分取消し
令和5年12月21日裁決
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2社間での部品製造取引において、通常は24回の分割払であった金型等相当額が、新型コロナ感染症に伴う緊急支援策として、一括払に変更となった。部品を製造する下請会社は、支払方式変更後も従来と同様に24回に分割して各月の益金として計上したが、原処分庁は、一括払で受領した日の属する事業年度に全額を算入すべきと主張した。審判所は、実態として役務が継続的に日々提供されていること等から、分割しての計上は公正処理基準に適合するとした。
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X社は、ある部品の製造・販売等を行う株式会社であり、設立以来、A社からの注文を受け、製造した部品をA社に販売していた。部品の製造に当たっては、部品の金型・治具・検具(金型等)を都度製作していた。
平成11年9月、X社とA社は、X社が所有権を有する金型等について、その制作費相当額をA社が負担でき、その支払は24回の月額均等分割払方式とする旨の覚書を取り交わし、合意した。
X社は会計処理上、この均等分割払方式による金型等相当額について、部品の量産開始日を含む月から24回にわたり、翌月に支払われる金額を収益として計上していた。
令和2年4月、A社は、X社を含めた取引先に対し、新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う緊急支援策として、A社が支払を終えていない均等分割払方式による金型等相当額の残額について、一括払を希望する取引先には、同月30日に一括して支払う旨、書面で案内した。これを受けてX社は、(a)残額一括払費として約6億7,200万円(税抜)を受領した。
また、同年6月、A社は、X社を含めた取引先に対して同様に、令和2年度については、新規に契約が成立した金型等相当額を一括払する旨、案内した。これを受けてX社は、同年7月~11月に(b)新規一括払費として計約18億4,900万円(税抜)を受領した。
X社は、これらの一括払に変更となった金型等相当額について、下記のような会計処理を行った上、それに基づき期限内に申告した。
(a) 残額一括払費:4月30日の入金日に、従来と同様に均等に分割して収益に計上し、残りは前受金勘定又は長期前受金勘定に計上した上で、5月以降、均等に分割した額を、毎月末日に金型売上勘定に振り替えて収益に計上。
(b) 新規一括払費:各入金日に前受金勘定及び長期前受金勘定に計上した上で、24回で均等分割した額を、部品の量産開始日を含む月から24回にわたり、毎月末日に金型売上勘定に振り替えて収益に計上。
これに対し原処分庁は、契約の変更により一括で受領した金型等相当額については、受領の時点でX社の管理支配下に置かれ所得が実現しており、受領した日の属する事業年度に全額を益金の額に算入すべきであって、課税期間に係る課税資産の譲渡等の対価の額に該当するとして、令和4年10月付で、法人税・消費税等の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をした。
Xは処分を不服とし、審査請求に及んだ。
審判所はまず、2社間の金型等相当額の負担に係る契約等について精査し、契約の実態は、
・部品の製造に係る準備として金型等を製作するという請負契約
・委託した金型等の維持・管理に係る準委任契約
・製作した金型等についてA社に一定の権利を付与する権利設定契約
に係る各役務をX社は提供し、その対価としてA社は金型等相当額を支払うという内容の混合契約であると認定。
その上で、各役務とは具体的には、A社の発注する部品を製造するために使用する金型等を製作・取得し、A社から金型等の廃却等を許されるまで日々部品を製造するとともに、部品を瑕疵のない品質とするために日々検査し続け、日々金型等の維持管理を継続するというものであり、継続的に日々提供されるという特質を有するものであって、典型的な請負契約にみられるような物・仕事の「完成」や「一定の出来上がり量」を給付の目的とするものではないこと等から、本件の金型等相当額は、受領方式が均等分割払か一括払かにかかわらず、部品の量産開始日を含む月から24回にわたり毎月末日の経過で支払請求権が順次確定するものと認められ、X社が一括払費を均等分割払方式の際と同様に24回にわたり毎月末日に収益計上した会計処理は、公正処理基準(法人税法22条の2第2項)に適合すると認定。原処分を違法として、その全部を取り消した。