死亡保険金の収益計上時期をめぐる争いで課税処分を全部取消し
令和6年2月26日裁決
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前代表の死亡により法人に支払われた死亡保険金について、死亡日と支払通知日のどちらの事業年度に収益計上すべきかが争点となった。原処分庁は、前代表の死亡日の属する事業年度の益金の額に算入すべきと主張したが、審判所は、保険金が支払われない可能性があったこと等を踏まえれば、支払通知日の属する事業年度に収益計上した納税者の会計処理は合理的な収益計上の基準に則したものといえるとして、原処分庁の処分を違法として全部取り消した。
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令和3年12月、建築・土木工事請負業のX社(12月決算法人)の代表Aが、病院にて死亡した。
X社は、保険会社2社との間で、保険契約者と死亡保険金受取人をX社、被保険者をAとする生命保険契約を締結しており、令和4年3月及び5月に、それぞれ保険会社に保険金の請求を行った。これらは同年3月及び6月に入金され、X社は入金額より保険積立金等を差し引いた金額を雑収入に計上した。
X社は、令和3年12月期の法人税等について、期限内に申告した。この申告において、Aの死亡保険金の額は益金の額に算入されていなかった。
これに対し原処分庁は、各保険金の額は令和3年12月期の益金の額に算入すべきとして、令和4年12月16日付で法人税の更正処分及び過少申告加算税等の賦課決定処分をした。
令和5年3月、X社は処分を不服とし、審査請求に及んだ。
X社は、死亡保険金の収益計上時期は各保険会社からの支払通知日であり、したがって令和4年12月期の益金の額に算入されるべきと主張した。
これに対し原処分庁は、
(a) 法人税法22条2項及び4項によれば、各保険金の請求権が確定したと認められるか否かは、X社が令和3年中に各保険金の額を請求することができたか否かではなく、各請求権の発生及び実現の可能性を認識できたか否かで判断すべき。Aは死因が「病死又は自然死」と診断され、保険金の支払事由に該当するとともに、免責事由のいずれにも該当しないため、死亡日に各請求権の実現可能性を客観的に認識でき、その行使が可能となったといえる。
(b) 各保険金の額を令和3年12月期の益金の額に算入すべきことは、法人税基本通達9-3-4の(1)及び所得税基本通達36-13といった法令解釈通達の定めとも整合する。
等として、X社が受領した各保険金の額はAの死亡日の属する事業年度の益金の額に算入すべきである等と主張した。
審判所はまず、法人税法22条2項及び4項の規定からすれば、収益はその実現があった時、すなわちその収入すべき権利が確定したときの属する年度の益金に算入すべきだが、現に法人のした利益計算が法人税法の企図する公平な所得計算という要請に反するものでない限り、課税所得の計算上もこれを是認するのが相当と指摘。
その上で、
・Aの死亡診断書に記載された死因の種類が「病死及び自然死」のみであったため、各保険会社の検討の結果次第では保険金が支払われないこともあり得たこと。
・保険金の請求のための所定の様式の交付には一定の時間を要すること。
等の具体的な事実関係を踏まえ、X社が恣意的に各保険金の額の収益計上時期を令和4年12月期に繰り延べようと企図したとは認められないと認定。X社の会計処理は取引の経済的実態からみて合理的な収益計上の基準に則したものであるということができると判断した。
また、上記原処分庁の主張についても、
(a) たしかに、保険契約上の支払事由が生じ、免責事由に該当しないことが見込まれる場合に、死亡日に収益計上する会計処理も法人税法上正当なものとして是認され得るものの、X社が行った会計処理も合理的な収益計上の基準に則したものと認められ、法人税法上も正当なものとして是認すべき。
(b) 法人税基本通達9-3-4の(1)は養老保険に係る支払保険料の額を資産に計上する旨の取扱いを定めたものであって、本件の根拠とはならない。所得税基本通達36-13とX社の判断の間に矛盾が生じるともいえない。
等として、理由がないと一蹴。審査請求には理由があるとして、原処分を全部取り消した。