特定口座内の上場株式の譲渡で概算取得費は適用できず
令和6年4月22日裁決
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特定口座内で譲渡した上場株式等の取得費について、納税者が確定申告において概算取得費を用いて再計算したところ、課税庁から否認を受けた。審判所は、特定口座制度において、法は金融商品取引業者が固有の計算方法により一元的に計算することを予定しており、納税者が概算取得費にて再計算することはできないと判断、納税者の請求を棄却した。
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個人投資家Xは、E社の株式10万株を、金融業者の特定口座に預け入れた。後にE社は上場し、株式は分割された。
平成31年、このE社株式の一部を約4億4,000万円で譲渡した。
Xは、令和元年分の確定申告の際、E社株式の譲渡所得に係る取得費について、実際の取得価額と概算取得費との差額を、特定口座年間取引報告書に記載された金額に加算して申告した。
令和5年3月、原処分庁は、上場株式等の譲渡所得の金額の計算上、取得費に算入する金額は、年間取引報告書に記載された金額により計算することになる等として、所得税等の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をした。
令和5年5月に、Xは処分を不服とし、審査請求をした。
Xは、
(1) 源泉徴収選択口座に係る特定口座内保管上場株式等の譲渡所得について、措置法37条の11の3《特定口座内保管上場株式等の譲渡等に係る所得計算等の特例》1項が、特定口座内保管上場株式等とそれ以外の株式等とを区分して計算する旨規定しているのは、投資家の所得計算の負担を軽減するため金融商品取引業者等が計算を代行する趣旨にすぎないから、納税者は確定申告において取得費等を含めて譲渡所得の金額を再計算できる
(2) 措置法通達37の11の3-14《株式等に係る譲渡所得等の課税の特例に関する取扱い等の準用》は、計算代行者である金融商品取引業者等の計算等に関する定めであって、納税者が概算取得費を譲渡所得に係る取得費として譲渡所得の金額を計算することは妨げられない
と主張した。
この2点について審判所は、
(1) たしかに措置法37条の11の3第1項の制度趣旨には、個人投資家の申告事務の負担を軽減するという点も含まれるものの、特定口座内保管上場株式等の譲渡所得の計算上取得費に算入する金額は、特定口座への受入れに係る記録を基礎として金融商品取引業者等が固有の計算方法により一元的に計算することが予定されており、法は概算取得費による再計算を予定していない
(2) 措置法通達37の11の3-14が、概算取得費による取得費を認める旨を定めた措置法通達37の10・37の11共-13《株式等の取得価額》を準用していないのは、特定口座内保管上場株式等の譲渡所得の計算において概算取得費を取得費とすることを認めない趣旨と解すべき
と一蹴。
Xの主張には理由がないとして棄却した。