役員から同族会社への無利息貸付けは行為計算否認の対象
令和7年3月7日裁決
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同族会社の役員が会社に対して行った無利息貸付けが、所得税法157条1項規定の「所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるとき」に当たるかが争われた。納税者は、貸付けを無利息としたのは倒産回避のためと主張したが、審判所は同族会社の財務状況等を踏まえ、納税者の主張を斥けた。
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Xは、株式及び出資持分の保有等を目的として設立された法人A社の取締役(後に代表取締役)。A社は、設立以後その発行済株式のすべてをXの長男が保有する同族会社である。平成29年6月、Xは、保有するB社株式を、代金約29.4億円でA社に譲渡した。A社は譲渡資金を調達するため、銀行から約29.4億円を借り入れた。一方Xは、受け取った譲渡代金のうち約23.4億円を同銀行の定期預金に預け入れた。
A社の借入れの弁済期である平成30年6月、Xは定期預金を解約して23.4億円の払戻しを受け、同日、A社に対し「貸金の利息は無利息とし、元金の返済は随時とする」旨の約定で、同額を貸し付けた。
令和6年2月、原処分庁は、Xが行った所得税申告について所得税法157条《同族会社の行為又は計算の否認等》1項の規定を適用し、Xが収受すべきであった利息相当額は雑所得に該当すると認定。A社への無利息の貸付けは所得税の負担を不当に減少させるとして、複数年分の所得税等の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分をした。
Xは処分を不服とし、審査請求に及んだ。
Xは、貸付けの目的について、A社が借入金の弁済期において弁済する資力がなく、弁済期の延長や弁済資金の調達もできなかったことから、A社の倒産や定期預金に設定された質権の実行によるXを含むグループの信用失墜に伴う多額の損失を回避するための緊急かつ暫定的な対応として行ったものであり、租税回避の目的はなかった等と主張。
貸付けを無利息とした理由についても、
・役員の同族会社に対する貸付けは無利息で行われることが一般的であること
・貸付けはXの自己資金を用いて実行したものであること
・A社は平成30年2月時点で債務超過となっていたこと
・事業環境の悪化により、A社の収入源であるB社の配当金が当時見込めなかったこと
を考慮したものであることから、貸付けは所得税法157条1項の規定に該当しない等と主張した。
審判所は、
・本件の貸付けは、約23.4億円という多額の金銭を無利息・無期限・無担保で貸し付けるものであり、通常行われる取引とは大いに異なる
・A社の債務超過は平成31年2月時点で解消しており、貸付けの日の当時も、B社から配当金約1.2億円が支払われることが見込まれていたこと等から、A社に倒産の危険があったとはいえない
といった事情を総合すると、XがA社に対して無利息で貸付けをすることに合理的な理由がなく、貸付けは不自然・不合理なものであり経済的合理性を欠くものであって、所得税法157条1項に規定する「所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」に該当すると認定。
Xの「役員の同族会社に対する貸付けは無利息で行われることが一般的」「本件貸付けはXの自己資金を用いて実行したものである」といった主張についても、判断を左右するものではないと一蹴。原処分の大部分を支持した。