数次相続における相続財産の帰趨は客観的状況で判断
令和7年6月17日裁決
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「父→母」の順で発生した相続において、父が母名義で預金していた口座から母と娘が出金した現金が、母の相続での相続財産に含まれるかが争われた。原処分庁は遺産分割協議書等を根拠に、母の相続の相続財産に含まれると主張したが、審判所は、前回相続に係る納税や残余財産の清算といった客観的状況から、母の相続財産には含まれないとした。
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平成28年5月、甲は死亡し、その相続が開始した。相続人は甲の妻である乙、長女X、長男、二男の4名である。4名は共同で甲に係る相続税の申告書を法定申告期限内に提出した。
甲は生前、農協の複数の支店に、乙の名義で預入れをしていた。
平成29年1月から平成30年2月にかけて、乙とXは、これら乙名義の複数の預金を解約したほか、乙名義の普通預金を払い戻した。
平成31年4月、税務署は、甲の相続について調査し、申告されていなかったこれら乙名義の各預金について把握した。
令和元年5月、乙及びXら相続人は、これら各預金についての遺産分割協議及び修正申告をした。
令和3年6月、乙は死亡し、その相続が開始。相続人は長女X及び長男、二男の3名である。3名は同年11月、遺産分割協議を行い、遺産分割協議書にそれぞれ署名押印した上で、法定申告期限内に相続税の申告を行った。
令和5年8月、原処分庁は、乙の相続について調査を実施。Xはこの調査をふまえ、令和5年12月、修正申告をした。
令和6年3月、原処分庁は、上記乙の相続に係る遺産分割協議によりXが取得した金員(本件金員)が乙の相続財産に含まれていなかったとして、更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をした。
令和6年6月、Xは処分を不服として、審査請求に及んだ。
原処分庁は、
・乙が農協の各預金から出金するにあたり、Xが乙の窓口となって渉外担当者に対し出金依頼を行ったり、渉外担当者がXの経営する美容室に出金依頼のあった現金を届けていた
・乙は現金受領の場にいないこともあったのに対し、Xは必ず同席していた
・乙の相続の遺産分割協議書にも、各預金を原資とする金員が相続財産に含まれる旨記載があり、Xも署名押印している
こと等から、Xは各預金口座から出金した現金を管理・所有しており、これを原資とする本件金員を相続により取得したと主張した。
これに対しXは、
・これら預金はそもそも甲が乙名義で貯蓄していたいわゆる名義預金であり、甲の相続に係る相続財産である
・各口座からの出金に関与していたのは、乙の指示・依頼に従ったものである
・遺産分割協議書に署名押印をしたのは、協議を主導した税理士らの説明が不足していたからであって、遺産分割協議書はXの意思に基づいて作成されたものではなく無効である
等と反論した。
審判所は、本件金員の原資は乙名義の口座の各預金であるところ、各預金は、以前に行われた甲の相続に係る相続税の調査において、甲の相続財産として修正申告の対象とされたもので、各預金が現金出金された後、乙及び共同相続人は修正申告に伴う納税や残余財産の清算を協議し、その協議に沿って納税や残余財産の清算が行われたと認定。このような客観的状況を踏まえると、Xが本件金員を乙の相続により取得したものとは認められないから、本件金員は、乙の相続に係る相続財産に該当しないと判断して、原処分の全部を取り消した。