資本の払戻しか、みなし配当かをめぐる争いで納税者が全面勝訴
東京地裁平成29年12月6日判決
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資本剰余金を原資とする配当か、利益剰余金を原資とする配当か――。法人税法23条と24条の解釈をめぐって争われた事案で、東京地裁は政令の規定を一部違法とした上で、課税当局の処分を全面的に取り消した。
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原告のX社は、米国子会社A社の資金を還流すべく、平成24年11月12日にA社に対して約5億4,000万ドルの利益の分配、1億ドルの資本の払戻しを行うよう指示。翌々日の14日に次のような経理処理を行った(概算)。
(借)預 金 512億円 (貸)関係会社株式79億5,000万円
受取配当金 432億5,000万円
剰余金の配当について、法人税法23条(受取配当等の益金不算入)1項1号の規定は、「資本剰余金の額の減少に伴うものを除く」と規定し、24条(配当等の額とみなす金額)1項3号(本事案当時。現4号)は「資本剰余金の額の減少に伴うものに限る」と規定している。
つまりX社は、資本剰余金を原資とする剰余金の配当と、利益剰余金を原資とする剰余金の配当に区分した上で、上記のような処理を行ったということだ。
X社は、上記処理のまま平成25年3月期決算・申告を行ったが、京橋税務署長は、次のような更正処分を行った。
(1)本件の剰余金の配当は、それぞれの効力発生日が同じであることなどから、その全額が法人税法24条1項3号の資本の払戻しに該当する。
(2)これにより、みなし配当の金額は約344億2,000万円に減額され、その結果、益金不算入の過大額約84億円が加算される。
X社は、これを不服として提訴に及んだ。
裁判で被告・課税当局は、法人税法23条、24条の「資本剰余金の額の減少に伴うもの」とは、「資本剰余金の額の減少に伴う部分の金額」と規定しているわけではないことから、(1)資本剰余金・利益剰余金の双方を原資とする剰余金の配当は、原資ごとに区分することなく、株主が受領する金額の全体を「資本剰余金の額の減少に伴うもの」に該当するものとして取り扱うことを示している、(2)資本剰余金を原資とする剰余金の配当と利益剰余金を原資とする剰余金の配当が同時である場合、どちらを先に計算するかで受取配当等の益金不算入の適用額が変わってしまい、公平性に問題が生じるため、同時に行われた場合は24条1項3号該当と整理すべき――等と主張した。
東京地裁は、法人税法24条1項3号の「剰余金の配当」は利益剰余金のみを指すことは明らかであり、23条1項1号の規定とは対を成していると指摘した上で、「その文理の論理的帰結として、24条1項3号は資本剰余金のみを原資とする剰余金の配当及び資本剰余金と利益剰余金の双方を原資とする剰余金の配当を意味するものと解するのが自然」であり、また被告の上記主張(2)については合理性が認められるとして、課税当局の主張に一定の理解を示した。
しかしながら、法人税法では、利益剰余金を原資とする剰余金の配当が24条1項柱書の「株式又は出資に対応する部分の金額」に含まれて、「有価証券の譲渡に係る対価の額」と認識され、法人税の課税を受けることとなる事態を想定していないと解される、との見解を示した上で、「株式又は出資に対応する部分の金額」の計算方法を定める法人税法施行令23条1項3号(現4号)は、利益剰余金を原資とする剰余金の配当の額が「株式又は出資に対応する部分の金額」に含まれることとなる場合には、法の委任の範囲を逸脱した違法なものとして無効であると解するのが相当と断じた。
さらに、本件の場合、A社の配当直前の資本金等の額は約2億1,000万ドルであるのに対し、簿価純資産価額は約1億ドルであり、「払戻し等の直前の払戻等対応資本金額等」及び「株式又は出資に対応する部分の金額」が共に資本金等の額と同額の2億1,000万ドルとなって、本件配当により減少した資本剰余金の額である1億ドルを超えることとなるから、「払戻し等の直前の払戻等対応資本金額等」及び「株式又は出資に対応する部分の金額」はいずれも1億ドルに修正されるべきことになる。そうすると、本件配当の額のうちのみなし配当の金額も約5億4,000万ドルに修正されるべきこととなり、X社の当初申告のとおりとなると判断。課税当局の処分を違法として取り消した。