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注目判決・裁決例(大阪高裁平成29年9月28日判決)

2018年05月29日
賃貸用不動産を贈与で取得した際の贈与税は不動産所得の必要経費となるか
大阪高裁平成29年9月28日判決
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賃貸用不動産を贈与により取得した納税者が、その不動産から生じた所得の計算上、贈与税は必要経費に該当すると主張、税務当局との間で争いとなった。原審・大阪地裁判決は「贈与税は当該賃貸業務との関連性を欠く」として必要経費該当性を否定したが、納税者はこの判断に納得せず、大阪高裁に控訴。しかし、大阪高裁の判断も、原審判決を支持する内容となった。
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納税者Xは、平成22年4月1日に父親から賃貸用不動産を贈与により取得し、贈与税を納付。その後、平成23年分及び平成24年分の確定申告について「納付した贈与税は所得税法37条1項所定の必要経費に当たる」として更正の請求を行ったものの、税務署長は更正をすべき理由がない旨の通知処分を行った。Xはこれを不服として提訴に及んだものだ。

争点となっている所得税法37条1項の規定は次のとおり。

(必要経費)
第37条 その年分の不動産所得の金額、事業所得の金額又は雑所得の金額(事業所得の金額及び雑所得の金額のうち山林の伐採又は譲渡に係るもの並びに雑所得の金額のうち第35条第3項(公的年金等の定義)に規定する公的年金等に係るものを除く。)の計算上必要経費に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、(1)これらの所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及び(2)その年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用(償却費以外の費用でその年において債務の確定しないものを除く。)の額とする。

原審(大阪地裁平成29年3月15日判決)で、Xは次のように主張した。
(1)の「直接に要した費用」を「個別対応の費用」、(2)の「業務について生じた費用」を「一般対応の費用」と呼んでいるが、本件贈与税は土地建物の賃貸権原を取得するため平成23年3月に支出を要した費用であるから、平成23年分の不動産所得との関係で、(1)の個別対応の費用に該当すると主張。そうでないとしても、(2)の一般対応の費用については「直接要した」という限定を付しておらず、「業務について生じた費用」であればすべてが必要経費となると定めているので、本件贈与税は、少なくとも一般対応の費用には該当すると主張した。
これに対し原判決は「(1)の個別対応の費用が必要経費に該当するためには、不動産賃貸業務と関連することを要する」との解釈を示し、Xの主張を棄却。Xはこれについて「業務の関連性」という法文に記載されていない要件を加えることにより不動産所得の必要経費となる費用の範囲を限定しているが、このような解釈は租税法律主義に違反していると反論した。

大阪高裁はまず、贈与に対する所得税法の取扱いについて、「所得税法9条1項16号が、贈与による純資産の増加も所得であるとしながら、贈与により生じた所得に対しては所得税を課さず、贈与税を課することとしているのは、贈与が相続税回避の手段として濫用されることを防止するため、このような租税政策が採用されたもの」と整理した上で、この結果、贈与所得とそれ以外の所得では、法律上当然に分離され、それぞれ異なる手法で計算された課税標準に、異なる税率を乗じて得られる額の租税が賦課されることになる、と指摘。
贈与税は、贈与に伴う所有権移転を課税原因とするのではなく、贈与に伴う純資産の増加を課税原因とするのであって、贈与以外の手段で不動産を取得すれば支払う必要がないものであり、不動産賃貸収入を得ることによる純資産の増加(=不動産所得)とは別個の税目の租税が賦課される所得であるから、法的な観点からもそれぞれ別個に所得金額を計算する必要がある。したがって、贈与税は所得税法37条1項の必要経費には該当しない、と判示した。