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注目判決・裁決例(大阪地裁平成30年5月9日判決)

2018年06月04日
査察官による「横目調査」はあったのか――調査の違法性の有無
大阪地裁平成30年5月9日判決
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競馬で得た払戻金約1億6,300万円を申告せずに所得税約6,200万円を脱税した罪で、大阪府寝屋川市役所の職員に懲役6カ月・執行猶予2年、罰金1,200万円の刑が言い渡された。脱税の違法性はともかくとして、問題となったのは大阪国税局査察官による脱税調査の手法。別件の調査中に発覚した今回の脱税事案で、いわゆる「横目調査」の可能性が裁判の焦点となった。
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被告人X側の弁護人は、Xの脱税が発覚した経緯について、査察官の査察調査の際に、いわゆる「横目調査」あるいは「悉皆調査」といった、プライバシーを侵害する重大な違法調査がなされた可能性があると指摘。「このような調査に基づく証拠を許容することは、将来における違法捜査(調査)抑制の見地から相当でない」として、違法収集証拠を排除すべきと主張した。

裁判所は、以下のような事実の経緯を確認した。
(1) 平成28年1月13日~14日、大阪国税局査察部査察第5部門総括主査のCは、別の脱税事件(以下「別件犯則事件」)の調査のため、A銀行B支店に任意調査を実施。
(2) 別件犯則事件の犯則嫌疑者が不正行為で得た資金の使途が不明であったため、仮名・借名預金での不正蓄財も想定に入れ、A銀行B支店の了承を得た上で調査を行った。
(3) Cは14日午前中の調査で、Xの口座にJRAから2億3,000万円余りの金が振り込まれていたことを発見。別件犯則事件との関連性を確認するため、前後3年分程度のXの預金元帳等の情報を国税局に持ち帰った。
(4) CはXの申告状況を確認したところ、競馬収入に関して申告されていないことが分かった。

なお、Cは、Xの口座へのJRAからの入金が別件犯則事件と関連性があると判断した具体的根拠について、「公務員が知り得た事実で職務上の秘密に関するものであること」を理由に、証言を拒絶している。

大阪地裁は、まず、別件犯則事件の調査として金融機関調査を行った点について、「少なくとも、当初からXを狙い撃ちしようとして調査しようとしたとは考えられない」としながらも、Cは適切な範囲で調査対象の口座を限定したと証言しているが、その具体的な限定方法や合理性については証言を拒絶しているため、別件犯則事件の調査が必要性及び相当性を欠いた範囲にまで及んでいた可能性は否定できない、と指摘した。

次に、CがXの口座を発見し、その情報を持ち帰った点については、これもCが「本件犯則事件と関連性があると考えた具体的理由」については証言を拒絶しているため、口座情報を別件犯則事件との関係であえて持ち帰ってまで確認する必要性があったかについては疑問が残る、とした。

以上のことから、別件犯則事件の調査については、その対象範囲の絞り込みが不十分であった疑いは否定できず、口座情報を持ち帰った点についても、むしろXに対する所得税法違反の調査を主眼としていた疑いも否定できず、一連の調査は違法である疑いが残る、としながらも、(1)本件金融機関調査は銀行側の協力の下で行われた任意調査であり、確認すべき口座情報の範囲についても銀行側の了解を得ていると認められること、(2)本件入出金情報を覚知してからは、Xに対する所得税法違反の犯則調査としてこれに対処することが可能であり、その場合は銀行側も任意調査に応じたと考えられること――などの事情に照らすと、査察官の行った調査における違法の程度は重大とまではいえない、と判示。弁護人の主張には理由がないとして、Xに有罪判決を下した。