3年目の確定申告後に2年目の期限後申告をしても連年申告要件は充足せず
長野地裁平成29年9月29日判決
-------------------------------------------------------------------
FX取引で生じた損失を3年間繰越控除できる特例は、損失発生後3年間は毎年確定申告書を提出しなければならないという、いわゆる「連年申告要件」が規定されている。今回明らかになった事案では、損失発生翌年(2年目)の確定申告書を提出しておらず、損失発生翌々年(3年目)の確定申告書を提出した後に、損失発生翌年(2年目)の期限後申告をした場合に特例の適用は認められるか否かが争点となった。裁判所の下した結論は、納税者にとっては厳しい内容だった。
-------------------------------------------------------------------
FX取引などを含む先物取引に関しては、税務上、原則として損失が発生してもその金額はなかったものとみなされるが、先物取引の差金等決済をしたことにより生じた損失の金額のうち、その年分の先物取引に係る雑所得等の金額の計算上控除してもなお控除しきれない金額がある場合には、一定の要件の下でその損失金額をその年の翌年以後3年以内の各年分の先物取引に係る雑所得等の金額から繰越控除できるという特例が措置されている(租税特別措置法41条の15)。その要件の一つとして、「その後において連続して確定申告書を提出している場合」(3項)、つまり繰越控除の適用の有無にかかわらず、毎年確定申告をすることが規定されている。
納税者XはFX取引を行っていたが、まず平成24年3月12日に、先物取引に係る雑所得の損失1,503万円とする平成23年分の確定申告を行った。その後、平成26年3月10日に、先物取引に係る雑所得の金額485万円、前年分までに引ききれなかった先物取引の差金等決済に係る所得の損失の額1,503万円、本年分の先物取引に係る所得から差し引く損失額を485万円とし、納税額0円とする平成25年分の確定申告書を提出した。
これに対し松本税務署は、「平成24年分の確定申告が提出されておらず、連年申告要件を充足していないため、繰越控除の特例は適用できない」として否認した。
Xはこれを受けて、いったんは納税額74万円とする修正申告を平成26年12月17日にしたものの、平成27年4月20日に平成24年分の確定申告を期限後申告として行った上で、「これにより平成23年分から連続して確定申告書が提出されたこととなるので、平成25年分の先物取引に係る雑所得の金額から繰越控除額を控除できる」として更正の請求を行った。しかし、松本税務署長は「更正をすべき理由がない旨の通知処分」を行い、Xの請求を門前払いした。
裁判でXは、(1)租税特別措置法41条の15第5項は、期限後申告であっても、この年の翌年以後において特例の適用を受けるために確定申告書を提出することができる旨規定しており、同条は、「申告書を提出する順序が前後する場合には本件特例の適用を認めない」旨は規定していないから、平成25年分の所得税等について、特例の適用は認められるべきだと主張。また、(2)税務署職員は平成24年分の確定申告書が提出されていないことを指摘すべきであったし、(3)本来納税者の落ち度を救済することが期限後申告の目的であり、各年分の確定申告の先後関係の違いのみによって特例の適用を認めないことは、税の公平性の観点からみて不公平であり、憲法14条に反するとも主張した。
これに対して長野地裁は、仮に、本件特例の適用を受けようとする年分の確定申告書を提出した時点において、その年の前年以前3年内の確定申告書が連続して提出されていなかったことから特例の適用が受けられなかったものの、その後に欠落していた年分の期限後申告をするとともに、当初特例の適用を受けようとしていた年分の確定申告に係る更正の請求をすることによって特例の適用が認められると解すると、期限後申告が決定(国税通則法25条)があるまでは行うことができることから、先物取引に係る課税雑所得等の金額及びこれに対して課される所得税の額が、それまでの間は確定しないこととなり、所得税の早期確定及び公平な賦課徴収の要請に反し、相当でないと判示。Xの主張には理由がないとして棄却した。