課税処分取消判決はその後の更正の請求に波及するのか(上)
東京地裁平成30年1月24日判決
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遺産分割が未了のため、とりあえず法定相続分で相続税の当初申告を行った。ところが、相続財産に含まれる非上場株式の評価をめぐって税務当局と争いになり、訴訟に発展。結果的に納税者主張の株価よりもさらに低い評価が認められた。その後遺産分割が確定したため更正の請求を行ったが、株式の評価は当初申告時の価額か、判決で認められた価額かをめぐり、再び納税者と当局の間で争いとなった。
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納税者Xは、母親の死亡により相続財産を取得することとなったが、他の相続人6人との間で遺産分割協議が調わなかったため、相続税法55条に基づき、法定相続分で分割したと仮定した上で相続税の申告を行った。
なお、Xの申告内容は「課税価格約22億6,000万円、納付税額約10億7,000万円」であった。
ところがその後、税務署から「相続した非上場株式の一部の価額が過少」との指摘があった。税務署は、「株式の発行会社が株式保有特定会社となるため、類似業種比準方式ではなく、純資産価額方式で評価すべき」として、平成19年2月、「課税価格約41億2,000万円、納付税額約20億円」とする更正処分等を行った(その後一部減額)。Xはこれを不服として、平成21年1月に提訴に踏み切った。
この訴訟の争点は、相続財産中に含まれる非上場株式の発行会社であるA社が株式保有特定会社に該当するか否かだが、東京地裁は以下のとおり判示して納税者の主張を全面的に認容し、課税処分を取り消した。
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東京地裁平成24年3月2日判決
本件相続の開始時において大会社に該当するA社が株式保有特定会社に該当するか否かについては、株式保有割合に加えて、その企業としての規模や事業の実態等を総合考慮して判断するほかない。本件については、A社の企業としての規模や事業の実態等は、上場企業に匹敵するものであったこと等を勘案すると、本件相続開始時のA社は、その株式の価額の評価において類似業種比準方式を用いるべき前提を欠く株式保有特定会社に該当するものとは認めるに足りない。したがって、A社は、大会社に該当する一方、評価通達189の(2)の定めるところに従って株式保有特定会社に該当するものとしてその株式の価額を同通達189-3の定めにより評価することは相当ではないから,A社株式の価額については,原則的評価方式である類似業種比準方式によって評価するのが相当である。
判決原文 11
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/573/082573_hanrei.pdf
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本判決を不服として国側は控訴したが、東京高裁は控訴を棄却。この訴訟は平成25年3月15日に確定している。
なお、国税庁は本判決を受けて、評価通達における大会社の株式保有割合による株式保有特定会社の判定基準を「25%以上」から「50%以上」に改正した。
ところで、肝心の株式評価について東京地裁判決(以下「前判決」という)は「課税価格約18億9,000万円、納付税額8億8,000万円」と認定。更正処分の価額のみならず、当初申告における価額も過大であったとし、この認定価額は当初申告の価額の範囲内であるから、更正処分は当初申告に係る納付税額を超えるその全部が違法なものであると判示した。つまり、前判決の結論は当初申告の「課税価格約22億6,000万円、納付税額約10億7,000万円」に落ち着いたというわけだ。
その後、平成26年1月16日に遺産分割調停が成立したことから、Xは同年5月16日、前判決における認定価額を前提に、相続税法32条(更正の請求の特則)に基づいて更正の請求を行った。
ところが税務署は、「株式の価額に係る部分については、当初申告における株式の評価の誤りに係る是正を求めるもので、相続税法32条1号に基づく更正の請求によっては是正し得ない」として、更正をすべき理由がない旨の通知処分及び増額更正処分を行った。
Xはこれを不服として、再び税務当局と対峙することとなった。
(以下、次号につづく)