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注目判決・裁決例(東京地裁平成30年1月24日判決)(下)

2018年08月07日
課税処分取消判決はその後の更正の請求に波及するのか(下)
東京地裁平成30年1月24日判決
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相続財産中の株式の発行会社が「株式保有特定会社」に該当するとして税務否認を受けた納税者が、処分を不服として税務当局を提訴。裁判所の判断は「株式保有特定会社非該当」で、更正処分はもとより、納税者の当初申告よりも低い評価額となった。このため納税者は遺産分割成立後、当初申告に基づく価額ではなく、裁判で認定された価額をもとに相続税法32条1号の更正の請求を行ったものの、またしても税務当局から否認された。再び裁判で当局と対峙した納税者に下された判断は?
(本記事の前半http://www.horei.co.jp/zjs/information/detail.html?t=Topics&id=2465
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ここまでの経緯を振り返ってみると、以下のとおりだ。
(1) まず、Xは「課税価格約22億6,000万円、納付税額約10億7,000万円」で当初申告。
(2) これに対し税務当局は、「課税価格約41億2,000万円、納付税額約20億円」で更正処分。
(3) Xの提訴を受けた東京地裁判決(前判決)は「課税価格約18億9,000万円、納付税額約8億8,000万円」と認定。
(4) 遺産分割の成立により、Xは裁判所認定価格をもとに「課税価格約9億6,000万円、納付税額約4億4,000万円(本件訴訟時の主張額は約4億5,000万円)」で更正の請求。
(5) 税務当局は更正をすべき理由がない旨の通知処分、及び「課税価格約49億円、納付税額約23億3,000万円」の増額更正処分。

争点は、主に(a)遺産分割成立後の更正の請求を規定する相続税法32条1号の解釈と、(b)前判決の拘束力についてだ。

まず、被告の税務当局は、争点(a)について、「当初申告に存在する過誤の是正を求めるために32条1号に基づく更正の請求をすることは法の予定するところではない」と主張。遺産分割の結果、既に確定した税額が過大となるか否かの判断に当たっては、あくまで当初申告の価額を基礎とすべきとした。
また、争点(b)については、前判決で審理の対象となったのはあくまで確定された税額の適否の問題であり、株式の評価についての判断は税額算出の根拠事実にすぎず、納付税額を確定させるものではないから、株式の評価についての判断は「前判決の結論と直接関係のない部分」であり、これについて拘束力は生じないと主張した。

これに対してXは、遺産分割前後の課税価格を比較する上で、分割前の申告における課税価格の計算にあえて立ち入って、新たになされる遺産分割により取得された課税価格の計算に用いなければならないなどとする根拠はない、と反論。「過去の誤った評価に縛られず、改めて適正な評価に基づき税額が計算され、既に納付した税額を下回る場合には差額の還付を受ける権利がある」と主張した上で、争点(a)については、「32条1号の更正の請求をするに当たり、相続財産の価額については改めて適正な評価をし、課税価格・納付税額を計算することができるというべき」とした。
また、争点(b)については、遺産分割後の更正は前判決と同じ事件について行われる処分となるというべきであって、税務当局は「A社が株式保有特定会社に該当しない」という前判決の判断に拘束され、この判断に基づく評価を適用しなければならないと考えるのが当然の帰結、とする主張を展開した。

東京地裁の判断は、まず、相続税法32条1号に基づく更正の請求においては、原則として、遺産分割によって財産の取得状況が変化したこと以外の事由、すなわち、当初申告における個々の財産の価額の評価に誤りがあったこと等を主張することはできないと解される、と指摘。
もっとも、本件のように申告後に個々の財産の価額を変更する更正処分がされた上、その取消しの訴えが提起され、判決がこの点について認定・判断をし、課税価格・納付税額につき更正処分の金額を取り消すこととなった場合には、32条1号に基づく更正の請求の際の計算において、従前の更正処分の価額をそのまま計算の基礎にすべきではないのはもちろん、当初申告における価額と置き換えることも相当ではなく、根拠を欠くとした。

また、32条1号の更正の請求について、前判決と同一の被相続人から相続により取得した財産に係る相続税の課税価格・相続税額に関する事件であることに変わりがない以上、行政事件訴訟法33条1項の規定(「処分又は裁決を取り消す判決は、その事件について、処分又は裁決をした行政庁その他の関係行政庁を拘束する」)における「その事件」として拘束力が及ぶものと解するのが相当と判示、Xの主張を認めた。
したがって、納付税額については、原告主張額である約4億5,000万円となり、この金額を超える部分について違法な処分として取消しを免れないと判断した。