離婚した元夫の滞納国税を払わなければならないケースとは?
東京地裁平成29年6月27日判決
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離婚に際して自宅を財産分与された妻が、元夫の滞納国税に関して「第二次納税義務」の納付告知処分を受けた。離婚に伴う財産分与は、そもそも財産取得者に対する課税はない。普通に考えれば、財産分与を受けた者に第二次納税義務が課されることなどはあり得ないが、今回のケースでは、その額が問題となった。
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原告Xの夫・甲は平成7年、甥に約5億円を貸すため、所有する土地に担保設定の上、金融機関から借金をした。ところが甥から返済はなく、やむを得ず平成10年から11年にかけて担保土地を手放すことに。甲は担保土地の売却に係る譲渡所得の修正申告をしたものの、平成12年1月、所轄税務署より過少申告加算税の賦課決定処分を受け、さらに同年4月、東京国税局より所有土地の差押えを受けた。
その翌月、Xと甲は協議離婚。離婚に伴い、甲はXに対し居宅のあったA土地を財産分与により引き渡す。また甲は、翌年3月にA土地の財産分与(譲渡)に係る所得税の確定申告を行った。
A土地を取得したXは、その後土地を分筆の上、平成19年1月にその一部を譲渡。代金3,900万円を受け取る。
甲はその後も滞納国税を弁済することができず、東京国税局は平成24年2月、租税債権約2億5,900万円の徴収のため、財産分与を受けたXに対し、納付税額約1億1,000万円とする第二次納税義務の納付告知処分を行った。
国税徴収法39条(無償又は著しい低額の譲受人等の第二次納税義務)では、滞納者が財産の無償又は著しく低い額の対価による譲渡、債務の免除等を行った場合、その権利取得者等は「利益が現に存する限度」で第二次納税義務を負うと規定されている。東京地裁はまず、滞納者の財産につき行われた譲渡の対価の額が同条にいう「著しく低い額」と認められるか否かは、当該取引の内容や性質等に照らして、社会通念上、その対価の額が通常の取引に比べて著しく低いものであるかどうかによって判断すべきと指摘した。
そこで今回の財産分与額が妥当なものであったか否かを検討すると、(1)清算的財産分与として約1,150万円、(2)扶養的財産分与として約450万円、(3)慰謝料的財産分与として1,000万円、合計約2,600万円と算定され、少なくとも3,000万円を超えて財産分与をすることは民法768条3項の趣旨に反して「不相当に過大」なものとの評価を免れないと認定。
一方でA土地の評価は約1億8,800万円であるから、3,000万円との差額である約1億5,800万円は「著しく低い価額の対価による譲渡」に当たるとした。
ところで東京地裁は、Xは処分の時点で既に甲の親族でも特殊関係者でもなかったため、Xが第二次納税義務を負う範囲は、同条にいう「受けた利益が現に存する限度」、つまり現存利益の範囲に限られると解するのが相当とした。
そうすると、まずXが納付告知処分時に所有していた財産は、分筆土地の代金3,900万円及び残りの土地の評価額約7,500万円を合わせた約1億1,400万円であり、そこから(a)分筆土地の売却に当たり負担した測量費用等、(b)財産分与の妥当額3,000万円、(c)財産分与に当たり負担した不動産取得税等の額の合計約3,700万円を控除した約7,700万円が「現存利益の限度額」であると判断。よって、約7,700万円を限度としてXは第二次納税義務を負うが、この金額を超える部分の納付告知処分は取り消すべきと判示。X・国側双方痛み分けの判決となった。