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注目判決・裁決例(東京高裁平成29年9月13日判決)

2018年09月05日
取締役としての職務執行停止仮処分中の役員給与は損金算入不可
東京高裁平成29年9月13日判決
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全株式取得後、売主との間で売買契約の有効性が争われ、取締役の職務執行停止等の仮処分が申し立てられた。仮処分が効力を有している間に発生した役員報酬は、法人税法34条に従って損金算入されるのだろうか? 納税者側は、当然損金算入されるとして更正の請求を行ったが、当局の回答は「NO」。裁判所の軍配は、果たしてどちらに上がったのだろうか?
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不動産業を営むX社の株主Tらは、その有する株式のすべてをAに売却したが、その後、売買契約の有効性についてTらとAとの間に紛争が勃発した。
Aは株式取得後の平成21年7月にはさっそく株主総会を開き、自らを代表取締役としたほか、複数名を取締役に選任する株主総会決議を行った。Tらはこれに対抗して、この株主総会決議の不存在確認、Aほか取締役の職務執行停止、Tらの株主としての地位確認、職務代行者選任の仮処分を申し立て、決定を受けた。Aは負けじと、翌8月には再び取締役を選任し、役員報酬の支給決議も行った(もっとも、この決議の真偽は不明)。さらに平成22年2月にも、役員報酬の支給決議を行っている。
この争いは、平成21年7月の株主総会決議の不存在確認請求は容認される一方で、株主の地位に関しては棄却する判決が確定することで終結(以下「別訴確定判決」という)。その間、平成22年2月期及び平成23年2月期のX社の確定申告は、職務代行者に選任されたB弁護士が行っていた。
X社は、平成22年2月期・平成23年2月の確定申告において、職務執行停止等の仮処分申立て後その決定前に取締役に選任された者に対する役員報酬及び業務関連費が損金の額に算入されていなかったため、所轄税務署に国税通則法23条2項1号(判決等の後発的事由)の更正の請求をしたところ、税務署から「更正をすべき理由がない旨」の通知処分を受けた。そこで、これらの処分の取消しを求める訴訟を提起した。

この裁判の主な争点は、未計上であった役員報酬及び業務関連費は法人税法上損金の額に算入すべきか否か。とりわけ、職務執行停止の仮処分が、効力を有している期間における役員給与損金不算入の可否だ。

一審の東京地裁平成29年3月10日判決は、以下のとおり判示してX社の請求を棄却した。
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(1) 別訴確定判決により、Aらが取締役等に選任されたとする平成21年7月総会決議は存在しないことになった。よって、Aらの役員性について平成22年2月期申告が計算の基礎としたところと異なることが確定した事実は認められない。

(2) X社は平成22年2月期の申告が無効なものとして誤納金の返還を主張するが、「申告が無効」というためには、申告の瑕疵が客観的に明白かつ重大で、納税義務者の利益を著しく害すると認められる特段の事情がある場合でなければならないが、申告はB弁護士により適法に行われたものであるから、瑕疵があったとはいえない。

(3) 法人税基本通達2-2-12は、債務確定の判定基準として「当該事業年度終了の日までに、(イ)当該費用に係る債務が成立していること、(ロ)当該債務に基づいて具体的な原因となる事実が発生していること、(ハ)その金額を合理的に算定することができるものであること――という要件のすべてに該当することを定めている。Aらが取締役に選任されたとする平成21年8月決議の存否にかかわらず、Aらは別件仮処分決定が効力を有する間、X社の取締役としての権限を行使することはできなかったのであり、取締役としての業務に従事することはできなかったというほかない。平成22年2月26日付で役員報酬を支給するとした決議は、原始的不能の委任契約上の事務の遂行に対する対価として約束されたものであるから、債務として成立してもいないし、具体的な給付をすべき原因となる事実も発生していない。
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この判決を不服としたX社は控訴し、本ケースが国税通則法23条2項1号の「その事実が当該計算の基礎としたところと異なることが確定したとき」に該当するか否かにつき、以下のように主張した。
「国税通則法23条2項1号の計算基礎事実には、課税要件事実に限らず、課税標準の算定に関する事実も含まれ、広く課税計算の基礎又は前提となって、その事実により特定の課税計算の内容を明確に左右するようなものであれば、これらの諸事実も含まれると解釈すべきところ、別訴確定判決によって本件株式売買契約が有効に成立したことが確定し、AがX社の一人株主になった以上、本件株式売買契約後に行われた平成21年8月総会決議が有効であることは論理必然であるから、国税通則法の要件を満たしている。」

これについて東京高裁は、「別訴確定判決によって申告に係る計算基礎事実(=Aらの役員性)が計算の基礎とされたところと異なることが確認されたわけではない」と一蹴。その他のX社の主張もすべて斥け、控訴を棄却した。