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注目判決・裁決例(名古屋地裁平成29年9月21日判決)

2018年09月12日
返還した退職慰労金に係る源泉所得税は還付を受けることができるか
名古屋地裁平成29年9月21日判決
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退職慰労金の支給を受けたものの、株主総会決議に不備があったことで、支給から7年後に会社に返還を余儀なくされた。返還を受けた会社は退職慰労金支給時に納付した源泉所得税の還付請求をしたところ、税務署は「5年経過により還付不可」と拒絶。「5年経過」の判断は、退職慰労金の支給時からカウントするのか、それとも返還時からかをめぐり争われた。
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名古屋市内で遊技場を経営するA社の代表取締役・甲は、平成20年5月に退職。A社の株主総会で、退職慰労金2億8,000万円を甲に支給する旨が決議された。A社は源泉所得税約5,000万円、市県民税約1,200万円を控除、約2億1,800万円を甲に支給するとともに、6月3日に源泉税等を支払った。
実はこのころ、甲は元妻の乙や子供たちとA社の株式保有をめぐり、訴訟のさなかにあった。
乙らは自分たちもA社の株主であると訴え、名古屋地裁、名古屋高裁は乙らがA社の株式68%を保有していた事実を認めた。
さらに平成26年2月、乙が代表者を務めるX社がA社を合併した。経営者として乗り込んできた乙は、平成20年の甲に対する退職慰労金支給は、株主である乙らを招集せずに開催した株主総会の決議に基づくもので、その株主総会決議は不存在であり法律上の原因を欠いているとして、甲に対し返還を請求。甲はやむを得ず平成27年4月14日、X社に対し退職慰労金の手取り額である約2億1,800万円を返還した。
同月、X社の顧問税理士が返還された退職慰労金に係る源泉所得税の誤納額還付請求書を所轄税務署に提出したが、税務署は「既に納付から5年を経過しているため、還付できない」として応じなかった(なお、市県民税はすぐに還付された)。

還付金等の消滅時効について規定する国税通則法74条1項は以下のような条文となっている。
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(還付金等の消滅時効)
第74条 還付金等に係る国に対する請求権は、その請求をすることができる日から5年間行使しないことによって、時効により消滅する。
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この「その請求をすることができる日」とは、本件の場合どの時点を指すのか、つまり消滅時効の起算点が、源泉所得税納付の翌日である「平成20年6月4日」(税務当局側の主張)か、甲から退職慰労金の返還を受けた「平成27年4月14日」(X社側の主張)かが争点となった。
税務当局は、「退職慰労金は甲の継続的な勤務に対する報償、労務の対価の後払いではないし、株主総会決議も不存在であったのだから、所得税法上の「退職手当等」には該当しない」、つまり、本件源泉所得税は納付当初から国側がこれを保有する正当な理由のない利得であったのだから、還付請求権の消滅時効の起算日は平成20年6月4日になると主張した。

これに対して名古屋地裁は、まず、甲に支払われた退職慰労金が所得税法上の「退職手当等」に該当するかを検討。
甲は退職まで27年間にわたりA社の代表取締役としての業務を遂行してきたのだから、継続的な勤務に対する報償、労務の対価の後払いの性質を有すると認定。退職手当等に該当し、株主総会決議の手続的要件を欠いていても、その性質が直ちに否定されるものではないと指摘した。
その上で、税務当局側が主張するように、「当初から租税法律関係が存在しなかったものとして、源泉所得税の納付時にその還付請求権が発生する」と解したとしても、所得税法上の所得は専ら
経済的面から把握すべきものであり、経済的にみて利得者がその利得を現実に支配管理し、自己のために享受する限り、その利得は所得を構成するのであるから、返還によって所得の経済的成果が失われるまでは、源泉所得税の課税要件に欠けるところはない、と判断。
平成20年6月4日をもって「その請求をすることができる日」と認めることはできず、甲からの返還があった平成27年4月14日がその日に該当する、つまり還付請求権は時効により消滅していないとして、国側は源泉所得税約5,000万円の返還と還付加算金の支払をすべきとする判決を下した。