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注目判決・裁決例(千葉地裁平成29年11月15日判決)

2018年09月26日
事前通知なしの税務調査、その要件該当性が問われた事例
千葉地裁平成29年11月15日判決
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平成23年の国税通則法の改正で、税務調査の事前通知が条文上明文化された。しかしながら、同時に「事前通知を要しない場合」も規定されたため、税務署が事前通知を経ずに実地調査を行う余地も残されたところだ。今回争われたのは、事前通知なき税務調査が行われた場合に、その行為自体が国家賠償法上の「違法行為」に該当するか否か。具体的には、このケースが「事前通知を要しない場合」の要件を充足していたかどうかが焦点となった。
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原告Xは、建設工事業を営むA社の代表取締役。妻のBが経理担当として共に働き、会社を運営していた。
平成28年3月17日、千葉東税務署の職員が事前通知なしにA社に臨場し、実地調査を行った。
この時Xは工事現場に出ていて不在であったが、まるで犯罪者のような税務署の扱いに憤慨し、その後の調査にも同席せず「修正申告には応じない」旨を、顧問税理士を通じて税務署に伝えた。
Xは、国税通則法74条の9に規定する納税者に対する事前通知が行われておらず、事前通知を要しない場合について規定する同法74条の10に該当するか否かの吟味もしていないため、税務署の行為は国家賠償法1条1項の適用上違法に当たるとして、慰謝料200万円と弁護士費用20万円の合計220万円の支払を求めて提訴した。

国税通則法74条の10は、以下のような規定となっている。
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(事前通知を要しない場合)
第74条の10 前条第1項の規定にかかわらず、税務署長等が調査の相手方である同条第3項第1号に掲げる納税義務者の申告若しくは過去の調査結果の内容又はその営む事業内容に関する情報その他国税庁等若しくは税関が保有する情報に鑑み、違法又は不当な行為を容易にし、正確な課税標準等又は税額等の把握を困難にするおそれその他国税に関する調査の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると認める場合には、同条第1項の規定による通知を要しない。
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税務署が事前通知をせずにA社の実地調査に着手したのは、以下のような理由からだとしている。
(1) A社の平成26年11月期・平成27年11月期の完成工事売上高の伸び率よりも完成工事原価の伸び率が大きいこと。
(2) 平成26年11月期にXとBからの借入金が増加していたものの、確定申告書に添付された「借入金及び支払利子の内訳書」の「借入理由」欄には何も書かれていなかったこと。
税務署は以上の理由から、売上げの除外、架空外注費・原価の計上等の不正計算が行われている可能性が強く、事前通知をすることで二重帳簿の作成や真正な帳簿の破棄、隠匿がなされる恐れがあると、経験則から判断した。
Xはこれらの理由について、以下のように反論した。
(1) 完成工事売上高と完成工事原価の伸び率が通常同程度となるなどといった前提は、企業経営の実情を無視した抽象論にすぎない。受注が増えれば外注依存率が高くなり、原価の伸び率が高くなるのは当然のことである。
(2) XとBからの借入金が増加したのは、当時受注工事が増加していたため、外注費等を支払う資金が不足するような事態を回避するため、ごく自然な形で資金調達をしたにすぎない。

これに対し、千葉地裁は以下のように判断した。
(1)税務署は、A社において受注した工事の施工管理を何人の従業員で行っており、完成工事売上高がいくらになると外注に依存する割合が急増するのかについては、Xが提出した確定申告書添付の決算報告書や勘定科目内訳書からは把握することができない。そうすると、通常、完成工事売上高と完成工事原価の伸び率は同程度になることを考慮し、税務署がA社の完成工事原価の伸び率と完成工事売上高の伸び率とを比較して完成工事原価や当期外注費の伸び率が同程度ではないことを不正計算の端緒として疑うことが不合理であるということはできない。
(2) 借入理由が記載されていなかったのであるから、Xが主張するような事情を税務署において把握することはできず、不正計算が行われていると疑うことは不合理とはいえない。
以上から、税務署がその職務上尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と国税通則法74条の10の要件該当性の判断をしたとの事情は認められず、国家賠償法上の違法があったとはいえないと判断。Xの主張を棄却した。