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注目判決・裁決例(東京地裁平成30年1月19日判決)

2018年10月30日
被相続人の預貯金を引き出していた相続人に重加算税
東京地裁平成30年1月19日判決
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母親が亡くなる前に口座から預貯金を引き出し、その一部を自分の口座に入金、一部を現金で自宅に保管していた相続人に対し、「相続財産を隠蔽した」として重加算税が課された。相続人は、「母親の預貯金は亡き父親の遺産であり、未分割財産なので、相続財産には当たらない」と弁明したが、裁判所には通用しなかった。
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原告Xの父親・甲は、平成19年に他界。その5年後の平成24年、母親・乙も他界した。
Xは乙の生前、乙名義の複数の預貯金口座から計5,180万円を引き出し、300万円を乙の医療費等に消費したものの、残金のうち1,070万円をX自らの口座に入金し、3,810万円を自宅の金庫に保管していた。
平成25年7月にXは母親の相続に基づく相続税の申告を行った。課税価格は約8,400万円、納付税額は約300万円だった。ところが、Xへの税務調査の結果、上記乙名義の預貯金口座から引き出した現金や預金等が申告漏れとなっていた事実が発覚。平成26年12月に、荻窪税務署長はXに対し課税価格約1億3,300万円、納付税額約1,480万円とする更正処分を行ったほか、重加算税410万円の賦課決定処分も行った。
Xはこの処分を不服として提訴に及んだ。

主な争点は、(1)乙名義の預貯金やXが引き出した現金等が乙の相続財産か否か、(2)乙名義の口座から預貯金を引き出し、自らの口座に入金、あるいは現金で保管していたことは国税通則法68条1項の「隠蔽」に該当するかだ。
裁判でXは、次のように主張した。
(1) 乙名義の預貯金の出捐者は専業主婦であった乙ではなく、甲又はX本人である(Xは就職後、毎月5万円~10万円を乙に渡していたため)。よって、乙名義の預貯金は甲の相続時の未分割財産であり、乙とXが準共有していた財産であるため、乙の相続財産ではない。
(2) Xは、本件預貯金の名義人が乙であったことから、乙の固有口座であると誤解しており、相続税を軽減するために引き出したのであるが、これらは未分割財産であるため隠蔽にはならない。

東京地裁は、まず争点(1)について、本件預貯金口座はいずれも乙名義である上、一次相続により乙が取得した財産のほか、乙固有の財産である恩給や年金が入金され、国債の償還や小切手の発行等に係る入出金があったこと、入退院を繰り返すようになるまでは、乙自身が通帳やキャッシュカードを管理していたことから、相続開始時点における預貯金の所有者は乙と認めるのが相当であり、預貯金は乙に帰属すると認定判断した。
その上で、X自身も申告の時点まで乙の預貯金口座であると認識していたことも、預貯金がいずれも乙に帰属するとの認定判断に沿う事実であるとした。
さらに、預貯金の出捐者は甲又はXであり、専業主婦であった乙のものではなく未分割財産であるとのXの主張に対しては、「Xが把握していない甲から乙への贈与やその他の収入源等があった可能性は十分にある」との見方を示し、いずれにしても預貯金等が乙に帰属するとの認定判断を左右する事情ではないと一蹴した。

次に争点(2)については、Xは預貯金を乙の相続財産として申告する必要があると認識しながら、預貯金の残高を減少させて相続税額を少なくしようと考え、医療費の支払に要する額を大幅に上回る5,180万円を引き出し、うち1,070万円をXの口座に入金し、3,810万円を現金のまま自宅に保管することで、外形的に現金が乙に帰属する財産であることが判明しにくい状態を作出したのであるから、これらの一連の行為は、故意に課税標準又は税額等の計算の基礎となる事実の一部を隠す行為というべきであり、「隠蔽」に該当すると判断。重加算税賦課決定処分に賦課要件を欠く違法はないと判示した。