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注目判決・裁決例(東京地裁平成30年3月27日判決)

2018年11月13日
返済の見込みがない債権でも相続財産に該当
東京地裁平成30年3月27日判決
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父親が会社への貸付金を残したまま他界。一次相続時はとりあえず母親が引き継いだものの、会社側に支払う能力・意思がなかったため、二次相続で長男は相続財産から外した。しかし、税務当局は「債権は存在する」として課税処分。裁判では、債権そのものの存在や、財産評価基本通達205の「回収が不可能又は著しく困難」に該当するか否かが争われた。一家に不幸をもたらした「貸付金」の正体とは?
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原告Xの父親・甲は、自ら創業したA社に多額の貸付金を有していた(以下「本件債権」)。
甲は晩年、A社の経営からは離れており、現経営者のBに事業を引き継いでいた。会社を引き継ぐ際、Bは本件債権の返済について、「すぐには払えないが、とりあえず甲の存命中は、毎月10万円を振り込む」ことを約束した。
平成20年初めごろ、甲は他界。本件債権は約5,700万円であったが、甲の妻・乙と長男Xは、同年12月、とりあえず乙が本件債権を取得するとした遺産分割協議書を作成し、相続財産に含めて相続税の申告を行った(一次相続)。
平成23年半ばごろ、今度は乙が死亡(二次相続)。Xは、一次相続後のA社とのやり取りから、本件債権が実際には存在しないものと認識するに至り、平成24年3月、本件債権を相続財産に含めず、課税価格約1,500万円、納付税額0円とする相続税申告書を提出。しかし、税務当局は本件債権を相続財産と認定し、平成26年5月に課税価格約7,600万円、納付税額200万円とする更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を行った。

裁判では、以下の2点が主要な争点となった。
(1) 本件債権は存在するか。
(2) 本件債権は財産評価基本通達205の「その他その回収が不可能又は著しく困難であると見込まれるとき」に該当するか。
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(貸付金債権等の元本価額の範囲)
205 前項の定めにより貸付金債権等の評価を行う場合において、その債権金額の全部又は一部が、課税時期において次に掲げる金額に該当するときその他その回収が不可能又は著しく困難であると見込まれるときにおいては、それらの金額は元本の価額に算入しない。
(1) 債務者について次に掲げる事実が発生している場合におけるその債務者に対して有する貸付金債権等の金額(その金額のうち、質権及び抵当権によって担保されている部分の金額を除く。)
イ~ヘ (略)
(2) 更生計画認可の決定、再生計画認可の決定、特別清算に係る協定の認可の決定又は法律の定める整理手続によらないいわゆる債権者集会の協議により、債権の切捨て、棚上げ、年賦償還等の決定があった場合において、これらの決定のあった日現在におけるその債務者に対して有する債権のうち、その決定により切り捨てられる部分の債権の金額及び次に掲げる金額
イ・ロ (略)
(3) 当事者間の契約により債権の切捨て、棚上げ、年賦償還等が行われた場合において、それが金融機関のあっせんに基づくものであるなど真正に成立したものと認めるものであるときにおけるその債権の金額のうち(2)に掲げる金額に準ずる金額
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Xは、まず争点(1)について、A社の現経営者Bは甲の生前、甲の存命中は毎月10万円を返済する旨合意しており、実際に平成19年2月まで支払っていたが、これは裏を返せば、甲が自らの死亡を停止期限とする債務免除の意思表示をしていたものである、と指摘。
加えてXは、一次相続で相続財産に含めたのは税理士にそうせざるを得ないと指導されたからにすぎず、さらにBに対して、次の相続でも相続税がかかるので「決算書から本件債権を消してほしい」旨伝えたことを強調。この発言は債務免除の意思表示をしたことに他ならないと主張した。
また、争点(2)については、「法的倒産や任意整理手続などが実施されておらず、かつ営業も継続しているような場合であっても、貸付金債権等の実質的価値が額面金額に満たない自体は存在する」と指摘した上で、A社の現状について以下のように説明した。
(a) A社は平成19年以降、常に債務超過の状態にあり、本件債権はA社の総資産の約4.7倍~6倍となっていた。現預金は500万円程度しかなく、とても本件債権を返済できる状況ではなかった。
(b) 二次相続発生当時、A社は慢性的に赤字体質であり、法人税も払っていなかった。
(c) A社は競合他社が多数存在する中で、従業員は2名で運営し、後継者の育成もされておらず、成長が見込める状況でもない。
以上のことから、本件債権について回収可能性に影響を及ぼし得る要因が存在することは明らかであり、A社の業務内容・財務内容・収支状況・信用力等の事情を鑑みれば、A社から約5,700万円の本件債権を回収する可能性がないことは明らかである。したがって、評価通達205により本件債権の評価は0円であると主張した。

これに対し東京地裁は、以下のように認定判断した。
まず、争点(1)については、A社は毎期「借入金及び支払利子の内訳書」に本件債権の存在を記載していた上、平成20年6月にはXらに対し本件債権の残高証明書を発行していること、また一次相続では乙が本件債権を取得し、遺産分割協議書にも記載していることから、A社は本件債権が存在するものとして会計処理し、乙とXはこのような認識を踏まえて遺産分割しており、一次相続開始時に本件債権は存在したと認定。
また、Xは平成25年9月に本件債権が存在しているものとして債権の履行をA社に求めていることから、本件債権が存在するものとして債権の行使をしたということができ、二次相続開始時にも本件債権は存在すると判断した。
なお、甲が自身の死亡を期限として債務免除する旨の意思表示をしたとする明示的な証拠はないとした上、Xが「決算書から本件債権を消してほしい」との発言をしたことも、確定的に法的効果を発生させる発言であるとまで認めるに足りる証拠はないとして斥けた。

次に争点(2)については、評価通達205の「その他その回収が不可能又は著しく困難であると見込まれるとき」は同通達(1)~(3)の事由と同程度に、債務者が経済的に破綻していることが客観的に明白であり、債権の回収の見込みがないか、著しく困難であると確実に認められるときをいうものと解すべき、と指摘。
その上で、A社は二次相続を含む平成23年6月期に約1,900万円の売上を上げており、金融機関からも継続的に融資を受けていること、会社更生手続などの法的処理が行われていたわけでもないことから、A社は経済的に破綻しておらず、本件債権の回収の見込みがない、又は著しく困難であると確実に認められる状態ではないと認定。たとえ資力がなくても、上記の要件に該当しない場合は評価通達205の適用は認められないとして、Xの請求を棄却した。