月額固定払いの業務委託料は必要経費に算入不可
東京地裁平成30年4月12日判決
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所有する不動産の管理を同族会社に委託し、月額固定払いで修繕費や修繕積立金等を支払っていた納税者に対し、税務署は、これらの費用は必要経費に該当しないとして否認。納税者は、いわゆる「ランプサム契約」で業務を委託したものであり、必要経費算入の要件を満たすなどと主張したが、一部の費用を除き、必要経費算入は認められなかった。
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原告Xは、東京都と千葉県にマンションの貸室など複数の不動産を所有。自身が代表取締役を務めるA社に、所有する不動産の管理を委託していた(なお、A社の取締役はXの他、Xの妻のみ)。
XはA社との間で、管理委託契約、コンサルティング契約、会計税務事務委託契約など、いくつかの契約を締結し、各物件の事務管理、清掃、設備管理等の業務を委託。この契約に基づき、設備の修繕費として月額13万円、修繕積立金として月額31万円、賃室リフォーム代金として月額22万円などを支払い、すべてXの不動産所得の計算上必要経費に計上し、確定申告を行っていた。
ところが、平成26年3月、三島税務署長はこれらの費用が必要経費に算入できないとして平成22年~平成24年分の申告を否認。Xはこれを不服として提訴に及んだ。
今回の裁判ではXがA社に対して月額で支払った修繕費、修繕積立金、賃室リフォーム代金等の費用が必要経費に該当するかについて、個別に検討された。
まず、修繕費についてXは、この契約は清算を伴わない「固定委託費一括払一括請負業務契約(ランプサム契約)」であるから、同契約に基づき「設備の修繕費」として支払われた本件修繕費はその全額につき必要経費の要件をいずれも満たすと主張。
これに対し東京地裁は、修繕を実施するかの判断はXに留保されており、Xからの個別具体的な修繕の指示を受けない限り、A社は修繕義務を負うものではなかったと指摘。したがって、XからA社に支払われる月額13万円の修繕費は、その支払に係る債務が確定するまでは、将来の修繕に備えてA社に預けられているものにほかならず、必要経費に算入することはできないと判示した。
もっとも、A社が現実に各物件の修繕を施工業者に依頼して実施したことが認められる部分の金額は「Xの指示に基づいて行われ、かつ、修繕の都度、その費用がXに請求されたものと認めるのが相当」として、平成22年分の51万円、平成23年分の58万円については必要経費に算入すべきと認めた。
次に修繕積立金について、Xはこれもランプサム契約であった旨を主張したものの、東京地裁は、Xが管理委託契約に基づいてA社に支払った月額31万円のうち28万円の修繕積立金については、同契約に基づくXの書面による修繕積立金の取崩しの了解がされていない以上、これに係るXのA社に対する費用支払債務が確定したとはいえないから、原告の不動産所得の金額の計算上必要経費に算入すべきものということはできないと判断した。
さらに月額22万円の賃室リフォーム代金については、XがA社に対して原状回復業務を委託する旨の明示的な定めはなく、その費用の支払に係る債務が確定するまでは、将来のリフォーム工事等の実施に備えてA社に預けられているものにほかならず、このような個々の修繕費用支払債務が確定したときに、これらの合計額が当該年分の必要経費に算入すべきものとなると解される、とした。
もっとも、A社が現実に施工業者に依頼して実施した具体的なリフォーム工事等については、Xの合意に基づいて行われ、かつ、リフォーム工事の都度、その費用がXに請求されていたものと推認するのが相当として、平成22年分の150万円、平成23年分の111万円については必要経費に算入すべきと判断した。
このほか、コンサルティング委託料(月額2万4,000円)、会計税務事務委託料(月額3万2,000円)についても、必要経費としては認めがたいと判断した。