別件調査中に発見した脱税の調査は違法か
大阪高裁平成30年11月7日判決
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巨額の競馬収益を脱税して有罪となった寝屋川市元職員の事件は、国税局査察官が別の事件を調査中に、偶然その端緒を発見したことから明るみになった。このいわゆる「横目調査」を疑われる調査により収集された情報には証拠能力がないとして被告人側が訴えていた裁判の控訴審で、一審判決と同様「調査に違法性なし」との結論が下された。
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被告人X側の弁護士は、この事件の発覚の端緒となった国税局の犯則調査によって得られた預金口座の情報は違法収集証拠であるから、証拠能力はないと主張。これに対して一審・大阪地裁平成30年5月9日判決は、「証拠能力を否定しなければならないほどの重大な違法があるとまではいえない」と判断。被告人側の訴えを斥けた。
一審が「違法ではない」と判断したポイントは、以下のとおりだ。
(A) Xに対する調査は銀行側の協力の下で行われた任意調査であり、口座情報の範囲についても銀行側の了解を得ているとみられること
(B) Xの預金口座の入出金情報を覚知してからは、Xに対する所得税法違反の犯則調査としてこれに対処することが可能であり、その場合には銀行側も任意調査に応じたと考えられること
控訴審でX側は、以下のように反論した。
(1) 本件口座の調査は、その情報を持ち帰った点を含め、別件犯則事件とは別のほ脱犯の事案発見のために行われたというほかなく、Xを狙い撃ちしていないとしても、対象者を特定せずに無差別にほ脱犯を摘発する目的が存した可能性が否定できず、査察官の調査が、別件犯則事件のため必要であったと認定した原判決には誤りがある。
(2) 本件口座の調査について、金融機関の同意があったとは断定できない上、同意があったとしても、銀行が犯則調査の必要性の有無等を吟味することは不可能であって、査察官から必要な調査であるといわれれば応じざるをえないから、このような重大な錯誤に基づく了解によって本件口座の調査の違法性が軽減されるものではないというべきである。
(3) 本件口座の情報を査察官が覚知した手段自体に重大な違法があることが争点であるから、その後改めてXに対する犯則調査が任意でなされ得るとしても、そのことによりそれ以前に査察官が覚知した手段の違法性が減じることはなく、原判決が、被告人の所得税法違反の犯則調査として任意調査が可能であったという指摘には意味がない。
これについて大阪高裁は、以下のように判断して控訴を棄却した。
(1) 査察官が本件口座情報を持ち帰ったのは、Xに対する所得税法違反の調査を主眼としていた可能性が考えられ、違法であった疑いが残るというべきであるが、XはJRAから多額の払戻金を得たことを誰にも話していなかったし、分不相応な浪費をしていなかったというのであるから、国税当局が当初からXを狙い撃ちにしようとして本件調査を開始したとは考え難い。仮に、本件口座情報の持ち帰りにつき違法があったとしても、そのこと自体から、本件口座を含む当初からの調査全体が違法となるとみることはできない。
(2) 査察官が銀行の同意や協力なしに,勝手に銀行の業務用機械を操作するなどして、自ら目的とする調査対象の預金口座の情報等を取得することは相当に困難であるとみられる。実際に銀行の同意はあったと十分みることができるのであるから、この点を踏まえて本件口座の情報をもとに作成された査察官調書の証拠能力を否定しなければならないほどの重大な違法は認められないとした原判決の判断は正当である。
(3) 査察官が本件口座情報を別件犯則事件の証拠として持ち帰ったのは、「選択すべき手続の誤り」であるから、令状主義の精神を没却するほどの重大な違法とみることはできない。
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