事業主自身による業務の外注費は必要経費に該当せず
大阪地裁平成30年4月19日判決
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個人事業を営む事業主が、自らが代表者を務める法人に業務を委託、外注費を必要経費に算入して申告していたところ、課税庁から同族会社の行為計算否認を受けた。事業主は、過去数年にわたって同様の処理をしていたため、課税処分に納得できないとして裁判に訴えたが、裁判所は課税庁側に軍配を上げた。
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Xは、「A」の屋号でLPガス、重油、灯油等の燃料小売業を営む個人事業者だ。
Xは昭和53年、配管工事業等を営む「B」に就職。Bは昭和58年に法人成りによって「B社」となった。
平成元年、XはB社を退職し、父親である甲が営んでいたAの事業専従者となった。しかし、Xはその後も必要に応じてB社の業務にも従事しており、その場合は甲が日当相当額をB社から受け取っていた。
Xは平成14年にB社の代表取締役に就任。これを機に、Aの配達販売業務等をB社に委託するようになり、甲がB社に「人夫派遣費」名目の外注費を支払い、必要経費に計上するといった処理が行われるようになった。
平成17年頃から甲が入退院を繰り返すようになったため、Xは平成18年1月にAの事業を承継し、正式に事業主となった。Xは従来どおり、B社の経営者としてAの配達販売業務を行い、外注費を授受。一方でAの事業所得計算上、その外注費を必要経費に算入して確定申告を行っていた。
ところが、平成26年3月、兵庫税務署長は「本件外注費を必要経費に算入することは、事業経営者自身に対する報酬を必要経費として認めることと等しい効果が認められる」として、所得税法157条1項の「同族会社の行為計算否認規定」を適用し、平成22年~平成24年の3年間の所得税について更正処分等を行った。Xはこれを不服として、大阪地裁に提訴した。
裁判でXは、AとB社との間の取引は甲が事業主であった頃から行われていたもので、Xが事業主になった後もこれまでの状況が維持されていたにすぎないので、必要経費該当性が否定される理由はないと指摘。
これに対して国側は、本件ではAから外注費が支払われることによって、X個人の所得税の負担を3年間で約580万円程度減少させ、一方でB社の法人税は約50万円しか増加していないことを取り上げ、所得税の負担を不当に減少していることは明らかとした。
大阪地裁は、(1)AとB社との取引で業務に従事するのはXのみであり、B社の他の従業員が従事することは予定されておらず、実際にそのようなことはなかったこと、(2)XがいつB社の業務に従事するかはX自身が判断して決めており、B社の受注業務に係る現場作業等に従事した日を除く平日は、ほぼ毎日Aの業務に従事していたこと等から、Xは個人事業に係る業務全般を、自己の保有する設備、車両等や資格を用いて、日常的に、自己の経験と判断に基づき、自己の労力及び経費負担を持って遂行してものというべきと指摘。
Xによる委託業務の遂行の実質は、B社による役務の提供や労働力の提供といったものではなく、Xが自らAの事業主として主体的にその業務を遂行していたものだと認定した。
その上で、本来支払う必要のない事業主自身の労働の対価を外注費名目でB社に支払っていたものといわざるを得ないとして、必要経費該当性の判断基準における必要性要件を欠くものと認められるから、必要経費には算入できないと判断した。