遠縁の包括受遺者による養子縁組無効の訴えは可能か
最高裁平成31年3月5日判決
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血の繋がりがない遠縁の親類が、遺言により全財産の包括遺贈を受けた。ところが、遺贈者には養子縁組をしていた者が存在し、その養子から遺留分減殺請求訴訟を提起された。受遺者は養子縁組無効の訴えを起こしたが、そもそも親族にも該当しない者が、このような訴えを提起できるのかが問題となった。原審・高松高裁は一審判決を覆し、「訴えを提起できる」と判断したが、最高裁は再び原審を覆し、「訴えを提起できない」と再逆転の結論を下した。
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Aは、平成22年7月、夫の兄弟の娘(血の繋がらない姪)Bの夫であるYに対し「全財産を包括遺贈する」旨の自筆証書遺言を作成した。またAは同年10月に、Bの弟X(血の繋がらない甥)を養子として養子縁組届を町長に提出した。
平成25年12月にAは死亡。Aの全財産は、遺言で包括遺贈を受けたYが取得。Xはこれに納得せず、平成28年1月に遺留分減殺請求訴訟(別件訴訟)を提起した。
Yはこれに対抗し、AとXの養子縁組がそもそも無効であったとする養子縁組無効確認請求訴訟を提起した(なお、平成29年10月にXは死亡したため、妻Cが訴訟を承継した)。
養子縁組の無効の訴えは、縁組当事者以外の者も提起することができるが、その養子縁組が無効であることにより自己の身分関係に関する地位に直接影響を受けることのない者は「法律上の利益がない」ため提起できないと解されている。
第一審では、YがAとは親族関係になかったことから、養子縁組の無効の訴えについて「法律上の利益を有しない」としてYの訴えを却下。
これに対し原審・高松高裁平成30年4月12日判決は、「養親の相続財産全部の包括遺贈を受けた者は、養親の相続人と同一の権利義務を有し、養子から遺留分減殺請求を受け得ることなどに照らせば、養親の相続に関する法的地位を有するものといえる」と指摘した上で、Yは「養子縁組が無効であることにより自己の身分関係に関する地位に直接影響を受けるものに当たる」と判断。YはAの全相続財産の包括遺贈を受けたものであるから、養子縁組の無効の訴えにつき法律上の利益を有するとして、一審判決を取り消した。
上告補助参加人Cの上告を受けた最高裁は、次のように判示し、原判決を破棄した。
(1) 遺贈は、遺言によって受遺者に財産権を与える遺言者の意思表示であるから、養親の相続財産全部の包括遺贈を受けた者は、養子から遺留分減殺請求を受けたとしても、その養子縁組が無効であることにより自己の財産上の権利義務に影響を受けるにすぎない。したがって、養子縁組の無効の訴えを提起する者は、養親の相続財産全部の包括遺贈を受けたことから直ちにその訴えにつき法律上の利益を有するとはいえないと解するのが相当である。
(2) YはAの相続財産全部の包括遺贈を受けたものの、Aとの間に親族関係がなく、Xとの間に義兄(2親等の姻族)という身分関係があるにすぎないから、養子縁組の無効により自己の身分関係に関する地位に直接影響を受けることはなく、法律上の利益を有しないというべきである。