被相続人の個人情報は相続人の個人情報に該当せず
最高裁平成31年3月18日判決
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被相続人が銀行に届け出た印鑑届書の印影を相続人が開示請求したところ、「個人情報に当たる」として銀行側に拒否された。相続人は、「被相続人の個人情報は相続人の個人情報でもある」として裁判に訴えたが、最高裁は、相続人の主張を認めた原審の判断を覆し、「被相続人の個人情報が直ちに相続人の個人情報に該当するとはいえない」と判断した。
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平成15年8月、Aは中国銀行井原支店に普通預金口座を開設。その際、銀行に対し印鑑届書を提出した。この届書にはAの銀行印の印影、住所、氏名、生年月日等の記載がされていた。
平成16年1月にAは死亡。法定相続人はAの子であるXほか3名であり、Xには本件預金口座の預金のうち1億円を相続させる旨の遺言書が存在していた。Xは中国銀行に対し、亡Aが提出した印鑑届書の情報開示を求めたものの、銀行はこれを拒否。
そこでXは、「亡Aが提出した印鑑届書の情報は、個人情報保護法2条7項に規定する保有個人データに該当するため、同法28条1項(本人は、保有個人データの開示を請求することができる)の規定に基づき、印鑑届書の写しの交付を求めることができる」として提訴に及んだ。要するに、印鑑届書の情報が相続人であるXに関するものとして「個人に関する情報」に当たるかどうかが争われた。
原審の広島高裁岡山支部平成29年8月17日判決は、「ある相続についての情報であって被相続人に関するものとしてその生前に法2条1項にいう「個人に関する情報」であったものは、その相続財産が被相続人の死亡により相続人や受遺者に移転することに伴い、その相続人等に帰属することになるから,相続人等に関するものとして「個人に関する情報」に当たる」と指摘。本件の印鑑届書の情報は、亡Aの相続人として預金契約上の地位を取得したXに関するものとして「個人に関する情報」に該当すると判断、Xの主張を認める判決を下した。
これに対して最高裁は、「個人情報保護法が保有個人データの開示、訂正及び利用停止等を個人情報取扱事業者に対して請求することができる旨を定めているのは、取扱事業者による個人情報の適正な取扱いを確保することが目的」と確認した上で、「このような法の趣旨目的に照らせば、ある情報が法2条1項にいう「個人に関する情報」に当たるか否かは、その情報の内容と個人との関係を個別に検討して判断すべきもの」と指摘した。
本件については、相続財産についての情報が被相続人に関するものとしてその生前に「個人に関する情報」に当たるものであったとしても、そのことから直ちに、その情報が相続財産を取得した相続人等に関するものとして「個人に関する情報」に当たるということはできない、と判断。原審の判決は是認することができないとして破棄し、Xの控訴を棄却した。