税理士への所得の秘匿は「隠蔽・仮装」に該当
東京地裁平成30年6月29日判決
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所有する不動産から生ずる賃料収入を申告せず、「仮装・隠蔽」と「偽りその他不正の行為」に該当するとして、7年分の重加算税を賦課された納税者が、「所得が発生するとは認識していなかった」として、処分の取消しを請求。裁判所は、この納税者には「過少申告の意図を外部からもうかがい得る特段の行動」があったと認定し、課税庁の処分を妥当と判断した。
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会社経営者のXは、A土地、B建物、C建物の3つの不動産を所有、賃貸していた。ところが、これらの不動産から生じる賃料収入を不動産所得として申告していなかったため、西大寺税務署長は、平成27年3月、重加算税の賦課要件である「隠蔽又は仮装」があったこと、また、重加算税の除斥期間7年の要件である「偽りその他不正の行為」があったことから、平成19年分~平成25年分までの7年間の所得を更正した上、重加算税の賦課決定処分を行った。
国側は、Xが平成19年~25年において、顧問税理士であるS税理士に対して賃料収入に係る不動産収入について意図的な不告知及び資料の不提示を継続し、申告しない姿勢を貫いていたこと、C建物の賃貸人を母親名義としていたこと、税理士事務所職員との会話から不動産所得を申告しない意向が明らかであることなどを理由として、Xは当初から所得を過少に申告することを意図し、税理士に対する不動産所得の秘匿という過少申告の意図を外部からもうかがい
得る特段の行動をした上、その意図に基づく過少申告をしたのであるから、隠蔽・仮装の事実が認められるとした。
また、内容虚偽の確定申告書を提出していたのであるから、偽りその他不正の行為にも該当すると主張した。
これに対しXは、本件賃料収入の存在は認識していたが、A土地については関連する多額の支出又は損失があり、各土地建物全体としては利益はないと思い、申告すべき不動産所得があると明確には認識していなかったと反論。よって、過少申告の意図に基づき不動産所得の秘匿を行った事実はないから、隠蔽・仮装はなく、偽りその他不正の行為もないと主張した。
東京地裁は、まず、重加算税を課すためには、納税者のした過少申告行為そのものが隠蔽・仮装に当たるというだけでは足りず、それとは別に隠蔽・仮装と評価すべき行為の存在が必要であるが、架空名義の利用や資料の隠匿等の積極的な行為までは必要ではなく、当初から過少申告を意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした場合には重加算税の賦課要件を充足すると指摘した。
これを本件についてみると、Xは(1)C建物の賃料収入を秘匿し過少申告の意図をもって賃貸人の名義を母親にしていること、(2)A土地の賃料変更をS税理士に伝えていないこと、(3)税務調査において賃料収入を秘匿していることはXが各不動産に係る賃料収入が正しく申告されていると認識していたこととは相容れない――などとして、Xは過少申告の意図を外部からもうかがい得る特段の行動をしたと認定、重加算税の賦課要件を満たすと判断した。
同様に、偽りその他不正の行為についてもあったと認め、除斥期間は法定申告期限から7年と判断。課税処分はいずれも適法とした。