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注目判決・裁決例(東京高裁平成30年7月11日判決)

2019年06月13日
被相続人の預金口座からの引出しで重加算税、2審でも納税者敗訴
東京高裁平成30年7月11日判決
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相続発生前に被相続人の預金口座から金を引き出し、相続財産には含めずに申告していた相続人に対し、「相続財産の隠蔽」を認定した上で重加算税を賦課。これを不服とした相続人は提訴したものの、一審判決は課税庁の処分を全面支持し、納税者敗訴となった。
相続人は控訴したが、やはり結論は変わらず、東京高裁は原審の判断を維持した。
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原告Xの父親・甲は、平成19年に他界。その5年後の平成24年、母親・乙も他界した。
Xは乙の生前、乙名義の複数の預貯金口座から計5,180万円を引き出し、300万円を乙の医療費等に消費したものの、残金のうち1,070万円をX自らの口座に入金し、3,810万円を自宅の金庫に保管していた。
平成25年7月にXは母親の相続に基づく相続税の申告を行った。課税価格は約8,400万円、納付税額は約300万円だった。ところが、Xへの税務調査の結果、上記乙名義の預貯金口座から引き出した現金や預金等が申告漏れとなっていた事実が発覚。平成26年12月に、荻窪税務署長はXに対し課税価格約1億3,300万円、納付税額約1,480万円とする更正処分を行ったほか、重加算税410万円の賦課決定処分も行った。
Xはこの処分を不服として提訴に及んだ。

一審の東京地裁でXは、乙名義の預貯金の出捐者は専業主婦であった乙ではなく、甲又はX本人であるため、乙名義の預貯金は甲の相続時の未分割財産であり、乙とXが準共有していた財産であるため、乙の相続財産ではない。よって、隠蔽にはならないと主張した。
これに対し東京地裁は、本件預貯金口座はいずれも乙名義である上、一次相続により乙が取得した財産のほか、乙固有の財産である恩給や年金が入金され、国債の償還や小切手の発行等に係る入出金があったこと、入退院を繰り返すようになるまでは、乙自身が通帳やキャッシュカードを管理していたことから、相続開始時点における預貯金の所有者は乙と認めるのが相当であり、預貯金は乙に帰属すると認定。
また、Xは預貯金を乙の相続財産として申告する必要があると認識しながら、預貯金の残高を減少させて相続税額を少なくしようと考え、医療費の支払に要する額を大幅に上回る5,180万円を引き出し、うち1,070万円をXの口座に入金し、3,810万円を現金のまま自宅に保管することで、外形的に現金が乙に帰属する財産であることが判明しにくい状態を作出したのであるから、これらの一連の行為は、故意に課税標準又は税額等の計算の基礎となる事実の一部を隠す行為というべきであり、「隠蔽」に該当すると判断。重加算税賦課決定処分に賦課要件を欠く違法はないと判示した(平成30年1月19日判決)。

Xの控訴を受けた東京高裁は、原審の判断を支持した上で、以下のような補足的判断を示した。
(1) 本件預貯金等の原資として、甲の収入に由来する部分が相当額あるとしても、家族間において、実質的に夫婦共有財産に属すべき金融資産を妻に贈与する趣旨で妻名義により預貯金等を預け入れ、夫が管理を続けるということは決して珍しくない。よって、乙名義の預貯金については、甲の収入に由来するものも乙に贈与されたものと推認するのが経験則にかなうというべきである。
(2) 国税通則法68条1項の重加算税は、故意に納税義務違反を犯したことに対する制裁ではなく、納税者において過少申告を行うことの認識を有していることまでを必要とするものではない。したがって、Xが「相続開始前に口座から現金を引き出しておけば相続税を軽減できる」という単純な考えを有しており、そのような認識に基づいて申告をしたのだとしても、重加算税を免れることはできない。