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注目判決・裁決例(大阪地裁平成30年8月2日判決)

2019年06月26日
特例適用を誤った税理士、「自己脱税」により懲戒処分
大阪地裁平成30年8月2日判決
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所有マンションを売却、「居住用財産の譲渡所得の特別控除」を適用して申告したところ、当該マンションは「主たる住居ではない」として否認を受けた。のみならず、譲渡の数年前から住民票の異動や住宅ローン控除の適用を受けるべく更正の請求等を行ったことは「仮装行為」、つまり「自己脱税」に該当し、信用失墜行為があったとして税理士懲戒処分を受けた。当事者はこれを不服として提訴したものの、裁判所の判断は国側の処分を全面的に支持するものであった。
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税理士・公認会計士であるXは、妻と3人の子とともに、神戸市六甲山の中腹にある戸建住宅に住んでいたが、子らが独立した後の平成15年、神戸市内の駅に隣接したマンションを約7,000万円で購入した(大部分を金融機関からの借入で賄った)。
Xは神戸市内で税理士事務所を営むとともに、東京に本店を置く事務所の所長も務めており、かなり多忙な日々を送っていた。仕事からの帰りが遅くなったときはマンションに帰宅、月に7~8日は東京出張であった。一方、Xの妻は戸建を生活の本拠とし、時折マンションを訪れて掃除したり、洗濯物を戸建に持ち帰って洗濯するなどしていた。
平成22年3月、Xは平成21年分所得税の確定申告において、上記マンション購入に係る住宅ローン控除の適用を行い、あわせて、平成20年分の所得税について、住宅ローン控除の控除漏れがあったとして更正の請求を行った。神戸税務署長はこれを受けて、約28万円の税額を減額する更正をした。
平成23年8月、Xは知人のL夫妻にマンションを8,200万円で売却。翌24年3月に、居住用財産の譲渡所得の特別控除(措置法35条)を適用し、譲渡所得の金額を0として確定申告を行った。
しかし、マンションは居住の用に供していないため、この特例は適用できない旨、神戸税務署長から指摘を受け、Xは修正申告をした。
神戸税務署長は平成26年3月、「Xは本件譲渡に本特例は適用することができないことを知っていたにもかかわらず意図的に本特例を適用して確定申告を行った」などとして約80万円の重加算税賦課決定処分を行い、Xもこれに対しては異議申立てをしなかった。
財務大臣は平成27年2月、Xに対し税理士懲戒予告通知書を送付。国税審議会の答申を経て、同年6月に「自己脱税」による税理士業務の停止の懲戒処分(3か月)を行った。Xは懲戒処分に先立って、税理士登録抹消の手続を行ったが、懲戒処分までは抹消することができず、懲戒処分後に登録抹消となった。
Xは翌7月に、処分の取消しを求める訴えを提起した。

大阪地裁は、「本件マンションが主たる住居に該当するか」について、Xは仕事からの帰りが遅くなったときなどに、定期的にマンションを利用して日常生活を行っていたということができ、一定の居住実態があったものと認められるとしたうえで、しかし、Xがマンションを「日常的に利用していた」とまで認めるに足りる的確な証拠は見当たらないとして、以下のような理由を挙げた。
(1) 妻がマンションで寝起きすることは少なく、妻の生活実態からすれば、Xのマンション利用頻度や滞在時間は一定の範囲に限られていた。
(2) マンションにおけるガス・水道の使用量は、単身世帯の平均使用量よりも相当に少なく、電気の使用量も、単身世帯の平均の使用量の65%程度であった。
(3) Xは平成15年~平成23年までの8年間で、複数回にわたり戸建とマンションに住民票上の住所を異動しているが、8年間のうち6年半は戸建の所在地に住所が置かれていた。また、税理士・公認会計士の登録上の住所も、年賀状の住所も、運転免許証の住所も戸建の所在地としていた。
(4) L夫妻にマンションの譲渡を求められて、短期間のうちに譲渡に至ったのも、戸建のみで生活することに現実的な不都合を感じなかったことの表れである。

さらに、「Xによる仮装行為の有無」については、次のように判断した。
(1) Xは、本特例の適用を受けるためには、マンションが主たる住居に該当しなければならないことを認識していたというのであるから、Xは本特例の適用を受けるための事実がないことを認識しながら確定申告を行ったものと認められる。
(2) Xは「仮装行為というためには、税務当局を誤解させるだけの実態を有していることが必要」と主張するが、仮装行為に当たるかどうかは、税務当局の発見の難易の程度にかかわらないものと解するのが相当であるのみならず、住民票を添付する行為は税務当局を誤解させるに足り得る行為であることからしても、Xの主張は採用できない。
(3) Xは譲渡前の数年間は1億円前後の収入を得ていたことから、「自己脱税をすべき強い動機はなかった」と主張するが、動機がなかったからといって、仮装の存在を認定することができないということにはならない。

以上により、マンションの所在地を住所とする住民票の写しを添付して確定申告を行ったXの行為は、信用失墜行為の一類型による自己脱税と評価すべきものであって、懲戒処分について裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があるということはできず、違法ということはできないとして、Xの訴えを斥けた。