脱税の職業的自覚なき者は、税理士登録不可
東京地裁平成30年8月30日判決
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OB税理士のXは、架空の経費を計上する手口で約3億円を脱税し、逮捕・起訴されて、最終的に懲役刑と罰金刑に処された。Xは脱税した本税を納付後、日税連に対して登録申請をしたものの、当然ながら門前払い。これを不服として、Xは提訴に及んだが、裁判所は「脱税という重大事件の職業的自覚が改善されていない」として、Xの請求を却下した。
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Xは平成10年にA税務署を退職後、税理士登録をし、業務を行っていた。
ところが、平成15年分から平成19年分までの所得税について、架空の支払手数料を計上するなどの手口で所得金額約2億9,300万円を過少に申告し、所得税約1億1,000万円を脱税したことが発覚。平成22年5月に逮捕された。同時にXは税理士会に対し税理士登録抹消届出書を提出した。
この脱税事件はOB税理士によるものとしては巨額だったため、全国紙でも取り上げられるほどであった。福岡地裁は同年10月、Xに対し懲役1年6月(執行猶予3年)、罰金1,300万円の判決を言い渡した。
Xはその後国税滞納額、県税滞納額、市税滞納額計約1億7,000万円超を完納。平成27年5月には、再び日税連に対し税理士登録申請書を提出した。
しかし、日税連は「相当額の税金の滞納がある者に税理士資格を認めるのは国民感情に照らし適当でない」として、Xの申請を拒否した。この時点でXは5,000万円以上の加算税と延滞税を滞納していたのだ。
Xはこれを不服として国税庁長官に対し審査請求書を提出したものの、これも棄却する旨の判決が下されたため、提訴に及んだ。
争点は、税理士法24条6号ロないし7号の登録拒否事由があるか否かだ。
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(登録拒否事由)
第24条 次の各号のいずれかに該当する者は、税理士の登録を受けることができない。
六 次のイ又はロのいずれかに該当し、税理士業務を行わせることがその適正を欠くおそれがある者
イ 心身に故障があるとき。
ロ 第4条第4号から第11号まで(脱税等により禁錮以上の刑に処せられた者等)のいずれかに該当していた者が当該各号に規定する日から当該各号に規定する年数を経過して登録の申請をしたとき。
七 税理士の信用又は品位を害するおそれがある者その他税理士の職責に照らし税理士としての適格性を欠く者
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日税連は、(1)本件は全国紙で取り上げられるなど社会的影響が甚大であり、税理士に対する社会的信用を著しく傷つけたこと、(2)判決確定の日から申請までの期間は、Xが不正を行っていた5年間すら満たさないこと、(3)Xには多額の滞納税額があること、(4)Xからは反省の態度をうかがうことができず、法令を軽視する身勝手な考えを改めていないこと等から、Xは登録拒否事由に該当すると主張した。
これに対しXは、(1)国税、県税、市税を完納し、その後も毎月25万円~30万円を加算税、延滞税の納付に充てていること、(2)既に執行猶予期間は満了しており、社会的に禊ぎは終わっていること、(3)税理士となる資格を有する者について、税理士としての活動の道を認めない処分は職業選択の自由に対する重大な制約であることから、本件処分は違法と反論した。
東京地裁は、次のように判断し、Xの請求を却下した。
(A) 巨額の脱税をしたXに、税理士として再びその業務を認めることは、税理士が他人の財産権と密接に関連する業務を行い、納税義務者の信頼に応えて適正な納税義務の実現を図るという職責を負っていることに照らし不適当といわざるを得ず、税理士制度そのものに対する社会一般の信頼を大きく損なう恐れが大きい。
(B) 税の滞納の事実は登録拒否事由に当たらないなどと主張するXの態度からは、税理士制度に対する社会一般の信頼の低下という悪影響を過小評価する姿勢が見て取れ、本件脱税の重大性や税理士業務の重要性、税理士に対する信頼確保の必要性について理解の欠如がうかがわれるものであり、税理士としての職業的自覚の改善もいまだ十分ではない。