共同事業による損失負担金が事業所得の経費となるか
東京地裁平成30年1月23日判決
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不動産会社と共同で宅地分譲事業を行っていた個人が、この事業から生じた損失の負担金を支払い、事業所得の計算上必要経費として申告したところ、「そもそもこの事業は事業所得を生ずべき事業には当たらず、損失負担金も一時に必要経費算入することは不可」とされた。東京地裁は、本件事業は事業所得を生ずべき事業であることは認めたものの、損失負担金に関しては概ね国側の主張を支持した。
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福島県内でパチンコ業を営む個人事業者Xは、平成5年、S宅地の地権者であるKから宅地買取りの相談を受けた。Xは、ここに他のパチンコ業者が進出すると困るので、買取りの要請には応じようとしたものの、パチンコ店を経営するには広すぎたため、S宅地を住宅地として開発分譲してはどうかと考え、不動産業を営むA社に話を持ち掛けた。
S宅地は比較的立地条件がよかったため、開発分譲しても1年程度で完売できるとA社は判断、この話に応じることにした。
XとA社は、宅地分譲に関する事業計画の作成や事務手続き等はすべてA社が行うとともに、Xは土地売買の立会いや借入金の保証を行い、利益や経費・損失の負担はすべてXとA社で折半する旨の覚書を交わした。
A社は宅地15区画、店舗用地5区画を開発したが、平成11年頃になっても20区画のうち5区画が売れ残り、最終的に売却を完了したのは平成20年になってからだった。この間、A社はXに対し、宅地分譲に係る損失負担金約1億8,000万円の支払いを求める訴えを提起。平成21年2月に最高裁が不受理決定をしたことで、A社の勝訴が確定した。
Xはやむを得ず損失負担金を支払った上で、平成21年分の事業所得の計算上、必要経費に算入して申告。ところが税務署は平成25年3月、本件宅地分譲に係る事業はXにとって所得税法上の事業所得を生ずべき事業には該当せず、本件損失負担金も必要経費として控除することはできないなどとして、更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を行った。
まず、争点(A)「本件宅地分譲が所得税法上の事業所得を生ずべき事業に当たるか」について、国側は以下のように主張し、事業所得を生ずべき事業には当たらないとした。
(1) Xはパチンコ業者であり、不動産業の専門知識や必要な免許を有しておらず、XとA社との覚書によれば、本件宅地分譲はA社において事業を展開する旨が定められ、Xはその立会人にすぎないことなどからすれば、本件宅地分譲の主体はA社であったというべき。
(2) 本件宅地分譲における経営判断はA社にゆだねられ、費用のすべてをA社が負担していることからすれば、Xが自己の計算と危険において独立して営んでいたとはいえない。
また、争点(B)「本件損失負担金を平成21年分の事業所得の必要経費として控除できるか」については、国側は以下のように主張した。
(1) 本件宅地分譲は、平成5年に地権者と基本協定を締結してから、平成20年に売却が完了するまでの14年余りの期間で、すべての収入及び費用をA社のものとしてその損益を計算し、法人税の確定申告書を提出していたことからも明らかなとおり、各決算期において収支が判明しないものではない。XがA社に対して負う損失負担金も事業継続期間の各年分において確定していたものである。
(2) したがって、Xが本件宅地分譲に係る収益及び損失を自らの事業所得として申告する場合には、A社の確定決算において計算された損益の2分の1を、事業継続期間の各年分の事業所得として申告すべきであって、平成21年分の事業所得において損失負担金をまとめて申告することはできない。
これについて東京地裁は、以下のように判断した。
争点(A)
(1) XとA社との覚書においては、Xが本件宅地分譲の立案者と明示され、宅地分譲の重要な内容の一つである土地の選定ひいては実施の決定に当たってXが与えた影響は少なくなかった。
(2) XはAの求めに応じて、地権者との折衝などS宅地の取得に向けた権利関係の整理等を行うことを承諾した。実際に、A社がS宅地を分譲に適した状態で取得するための各種対応を行っていた。
(3) Xは、銀行からの借入金について連帯して保証するにとどまらず、数次にわたり借入金の利率を引き下げる交渉を銀行との間で行っており、本件宅地分譲の資金面での関与は大きかった。
(4) 以上のとおり、Xが本件宅地分譲に関して果たした役割あるいは関与の程度に加え、宅地分譲の意思決定に関わり得る立場にあったことに鑑みれば、Xは実質的にA社と共同してその事業を営む者としての地位を有するものと認めるのが相当である。本件宅地分譲はA社が目的とする事業そのものであることに照らせば、Xが本件宅地分譲により生じた利益の分配を受けることに係る所得区分は事業所得に当たり、本件損失負担金は、事業所得の必要経費となるというべきである。
争点(B)
(1) Xは、本件損失負担金の計算方法や計算の基となる収入及び費用が一時的に定まらず、判決が確定する平成21年まで適正に見積もることは不可能であったと主張するが、A社が事業継続期間において本件宅地分譲に係る収支を計算し、法人税の確定申告書を提出していたことからもうかがわれるように、本件損失負担金に係るXのA社に対する債務は、判決の確定を待つまでもなく、その金額を合理的に算定できるものであったといえる。
(2) 本件宅地分譲は平成20年6月16日にすべての売却が完了しており、遅くとも同日時点では、XのA社に対する債務が成立し、本件損失負担金に係る金銭の給付をすべき原因となる事実が発生していたというべきである。そうすると、少なくともXの平成21年分の事業所得の計算において本件損失負担金に係る必要経費は控除できないというべきである。