お問い合わせ

  • 〒101-0032
  • 東京都千代田区岩本町1-2-19
  • 株式会社日本法令 ZJS会員係
  • 会員直通:03(6858)6965
  • FAX番号:03(6858)6968
お電話での受付時間
平日 9:00~12:00
  13:00~17:30

お問い合わせはこちら

SSL グローバルサインのサイトシール

このシステムは、SSL(Secure Socket Layer) 技術を使用しています。ご入力いただいたお客様情報はSSL暗号化通信により保護されております。SSL詳細は上のセキュアシールをクリックして確認することができます。

Article

注目判決・裁決例(東京地裁平成30年4月19日判決)

2019年08月29日
債務免除益の所得区分は借入れの目的や性質で判断すべき
東京地裁平成30年4月19日判決
---------------------------------------------------------
兼業農家を営んでいた納税者が農協から多額の借入れをしており、その債務免除を受けた。納税者は一時所得として申告をしたが、国側は「債務免除益は事業所得、不動産所得、雑所得に区分される」として否認。これに対し東京地裁は、「事業所得、不動産所得に区分される免除益もあるが、それ以外は一時所得に該当する」として、国側の処分を一部取り消した。
---------------------------------------------------------
Xは米麦の作付けを中心とした農業や不動産賃貸業を営むほか、農産食料品の販売等をする甲株式会社の代表取締役、農業用畜舎の設計施工・管理をする乙株式会社の取締役を務めている。
Xと甲社、乙社はA農協から多額の借入れを行っていた。平成11年の段階で、Xは約6億円、甲社は約5,700万円、乙社は約3,100万円の負債を抱えていた。
平成21年3月、甲社、乙社は1億3,000万円(X分が4,300万円、甲社分が5,700万円、乙社分が3,000万円)をA農協に弁済、A農協は残債務を放棄する旨の通知をした。
その後、Xは債務免除益に関して何も申告しなかったが、税務署は平成24年、債務の総額約4億7,400万円から弁済額約4,300万円を控除した約4億3,100万円について修正申告のしょうようを行った。Xはこれを受けて、同額を一時所得として修正申告したところ、税務署は、債務免除益約4億3,100万円のうち、約6,800万円は事業所得、約5,500万円は不動産所得、残りの約3億800万円が一時所得であるとして更正処分等を行った。
Xはこれを不服として、提訴に至ったものだ。

裁判で国側は、所得区分の判定に当たっては、その所得の性質や態様等といった担税力を基礎付ける事情を踏まえた検討を欠かすことはできず、債務免除行為による所得の性質は当該債務と密接に関連するというべき、とした。
その上で、債務免除益のうち、(1)農地を取得するための借入金に係る部分は、Xが従事する事業(農業)と関連する付随収入であるから、事業所得に該当、(2)賃貸不動産の取得のための借入金に係る部分は、不動産等の賃貸業務の遂行と密接な関連を有するから、不動産所得に該当、さらにその他の部分については、課税処分時には一時所得としたものの、一時所得の要件である(a)非継続性要件(営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得であること)、(b)非対価性要件(労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないものであること)を満たさないため、雑所得に該当するとして「理由の差し替え」を行った。

これについて東京地裁は、以下のとおり判示し、国側の処分を一部違法として取り消した。
(A) 借入金の債務免除益の所得区分の判断に当たっては、当該借入れの目的や当該借入金の取得に係る経済的利益の性質を考慮する必要がある。
(B) 農地取得のための借入金について、農地取得後宅地に転用し、賃貸用マンションの敷地として利用し始めるまで5年間が経過しているため、当該部分は不動産所得とは認められない。一方、運転資金として借り入れた3,600万円を賃貸用の共同住宅の建築費用に充てているので、この部分は不動産所得と認められる。
(C) A農協の不良債権の処理のために購入した農地に係る借入金は、農業の遂行とは関わりなく借り入れられた金銭であるから、事業所得とは認められない。一方、農業用機械の購入資金に充てられた借入金については、事業所得と認められる。
(D) その他の部分については、非継続性要件も非対価性要件も満たさないとはいえず、一時所得に当たるというのが相当である。