税務代理権限証書なき税理士への文書送付は違法か
東京高裁平成30年9月26日判決
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亡夫の相続税の申告を依頼していた税理士を解任。税務署は後任の税理士と書類等のやり取りをしていたが、後任の税理士は相続税に関する税務代理権限証書を提出していなかったことが判明した。納税者は税務代理権限なき者に文書を送付したことは違法として国家賠償請求訴訟を提起したが、一審・東京地裁は納税者が後任税理士に税務代理権限を与えていたと推認できるとして棄却。二審の東京高裁も、納税者の主張を斥けた。
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Xの夫で弁護士であった甲は、平成18年に他界。Xから依頼を受けたA税理士は、平成19年3月23日、相続税に関する税務代理権限証書と期限内申告書を提出した。
翌平成20年4月、麻布税務署のM総括上席国税調査官は、甲の相続税に関する税務調査に着手。
A税理士に調査への立合いを依頼したところ、XとA税理士の間でなんらかのトラブルがあったらしく、「Xとの委任契約は解除された状況にある」として調査への立会いを拒否された。
平成21年2月になって、新たに委任されたというB税理士が税務署に来署。B税理士は従前、Xの所得税・消費税の税務代理権限証書を提出していたため、M総括はB税理士との間で相続財産に関する明細データや書面等の受取り、減額更正処分案に関する資料等を送付するなどした。
そして同年6月と12月に、Xに対して減額更正処分を行った。ちなみに、B税理士も更正処分に至る過程で報酬金額の折り合いがつかず、Xから解任されてしまったようだ。
その後Xは、本件相続税の申告に関しB税理士には税務代理権限を与えていないとして、M総括の不法行為によって損害を被ったと主張し、国家賠償法1条1項に基づき、1,000万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める訴訟を提起した。
主要な争点は、M総括がB税理士に文書を送付したことは違法か否か。
Xは、本件相続税の申告業務について、B税理士に代理権限を与えたことはないにもかかわらず、M総括はXの許可なくB税理士に減額更正処分案に関する文書を交付し、Xに対する更正処分について情報を公開したと指摘。このことは違法であると主張した。
これに対して一審の東京地裁は、本件相続税の申告に関して、確かに麻布税務署にはA税理士の税務代理権限証書は提出されているが、B税理士の税務代理権限証書は提出されていないと認めた上で、(1)B税理士は甲の相続財産に関する明細データやX作成の書面をM総括に提出しており、これらのデータ等はXの協力がなければ提出できない、また(2)B税理士には、Xから委任を受けていないにもかかわらず、虚偽の説明をして調査に対応しなければならない動機も見当たらないと指摘した。
これらの事情に照らせば、XはB税理士に対し、本件相続税に関し税務代理権限を与えていたと推認でき、M総括が文書を送付したことは違法とはいえないと判断。その他のXの請求もすべて理由がないとして棄却した(平成30年4月16日判決)。
この判決になお不満であったXは東京高裁に控訴。「M総括がB税理士に対して代理権限証書の提出を求め、提出書類について押印を求めなかったことは違法」と補充主張した。
これに対して東京高裁は、次のように判示してXの控訴を斥けた。
(1) M総括はB税理士に対し税務代理権限証書の提出を求めることが相当であったが、税理士法30条(税務代理の権限の明示)は税務官署において、代理権の存否の判断を容易にさせることをその趣旨としているにとどまるものと解されるから、B税理士が代理権限を付与されていた以上、本件相続税の税務代理に当たって税務代理権限証書の提出が必要不可欠であったとはいえず、M総括がB税理士を本件相続税に関する代理人と認定し、その手続を進めたことは違法ではない。
(2) B税理士が提出したのはX作成の「回答書」と題する書面及び預り金の明細のデータが記録されたフロッピーディスクであって、これらは国税通則法124条に定める国税に関する法律に基づき提出する税務書類とはいえず、B税理士の押印等は不要であり、違法と評価されるものではない。