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注目判決・裁決例(神戸地裁平成30年12月26日判決)

2020年01月30日
通達改正後の減額更正の不可、不当利得返還請求でも納税者敗訴
神戸地裁平成30年12月26日判決
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相続税申告の数年後に財産評価基本通達が改正され、株式保有特定会社の基準が変更。旧通達では純資産価額方式で評価したが、新通達では類似業種比準価額方式による評価となったため、旧通達による「過払額」の更正の請求をしたところ、更正をすべき理由がない旨の通知処分を受けた。納税者はその後処分の取消しを求めて提訴したものの、地裁、高裁、最高裁でいずれも請求棄却となった。そこで納税者は、今度は「不当利得返還請求」及び「国家賠償請求」の訴えを提起したものの、神戸地裁は「いずれも理由がない」として棄却した。
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原告Xらは、平成18年11月8日に死亡した被相続人甲の財産を相続した。
相続財産中には未上場株式が含まれていた。当時の財産評価基本通達189(特定の評価会社の株式)では、大会社の株式保有特定会社の株式保有割合は「25%以上」とされており、甲保有株式の場合は29.1%であったため、Xらは純資産価額方式で評価の上、平成19年9月10日、伊丹税務署長に申告した。なお、本件申告に関する減額更正ができる期間は、5年後の平成24年9月10日までとなった。

その後、旧通達の合理性を問う訴訟が提起され、東京地裁平成24年3月2日判決、東京高裁平成25年2月28日判決で、納税者の主張を認められる判断が下された。国税庁はこれを受けて、平成25年5月27日、株式保有割合を「50%」とする改正を行った。
Xらは、同年7月25日、新通達の定める類似業種比準価額方式に従って評価した場合、相続税の額は約6,800万円少なくなるとし、相続税の更正の請求を行った。
ところが伊丹税務署長は「更正をすべき理由がない」旨の通知処分をしたため、この処分の取消しを求めて提訴。しかし、大阪地裁平成28年8月26日判決、大阪高裁平成29年3月17日判決はともにXらの請求を棄却し、最高裁は平成29年9月7日、Xらの上告を受理しない決定をした。

これを不服としたXらは、さらに別訴訟を提起。
(1) 不当利得返還請求(法律上の原因の有無)
(2) 国家賠償請求(国税庁長官の職務上の注意義務の有無)
(3) 国家賠償請求(伊丹税務署長の職務上の注意義務違反の有無)
それぞれの争点についての原告Xらの主張は以下のとおり。
(1) 旧通達は租税実体法に適合しないものであるから、旧通達に従った相続税額と新通達に従った相続税額の差額については、租税実体法上の根拠がなく、成立していないというべきである。
(2) 国税庁長官は、平成16年当時、旧通達に合理性がないことを認識し、遅くとも本件相続税の申告納付期限である平成19年9月10日までには旧通達を改正すべき職務上の注意義務を負っていたのに、これを怠った。
(3) 伊丹税務署長は、平成24年3月2日に旧通達の合理性を否定する東京地裁判決が下された時点で、本件相続税の減額更正期限の終期である同年9月10日までに減額更正をすべき職務上の注意義務を負っていたのに、これを怠った。

これについて神戸地裁は、以下のように判断し、Xらの請求をいずれも棄却した。
(1) 国税通則法は、相続等による財産取得時に相続税の納税義務が抽象的に成立し、その具体的な税額は納税者の申告によって確定することを原則とするものと解される。本件相続の場合は、本件株式を含めた相続財産の取得の時に抽象的に成立し、その具体的な税額が本件申告によって確定し、Xらは本件差額を含めた納付をしたものと評価することができる。したがって、本件差額を含め、本件申告に係る税額を納付したものと認められるから、本件差額を
被告(国)が保持することについて、法律上の原因がないということはできない。
(2) 公務員が通達を改廃するに当たり、個別の国民との関係において職務上の注意義務を負うと解することは原則としてできないというべきであり、通達を制定する行為が国家賠償法の違法と評価されることはないと解するのが相当である。
(3) 伊丹税務署長は、平成25年5月27日付通達によって旧通達が廃止された時まで、国税庁長官が発した旧通達に従うべき職務上の義務を負っていたというべきであって、これに反して本件相続税の額について減額更正をすべき職務上の義務を負っていたということはできない。

なお、Xらは大阪高裁に控訴したものの、令和元年10月10日判決により棄却されている。