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注目判決・裁決例(札幌地裁平成31年3月27日判決)

2020年02月27日
長男名義の牛舎等の建築は「譲渡等」に該当し納税猶予取消し
札幌地裁平成31年3月27日判決
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納税猶予を適用した農地上に長男名義の牛舎等を建築したことや、共同相続人からの遺留分減殺請求により農地の所有権を一部交換したことが「譲渡等」に該当するとして、納税猶予期限の確定により特例のすべてを取り消された納税者が、課税庁の処分は不当として不当利得返還請求訴訟を提起。裁判所は、国側の主張を全面的に認め、納税者の請求を棄却する判決を下した。
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原告Xが父・甲の相続発生により農地を相続したのは、平成6年。甲には他にA、B、Cの3人の相続人がいたが、遺言により遺産の全部をXに相続させた。Xは取得した農地について納税猶予の特例を適用した上、相続税の申告を行った。
Xは平成10年、本件農地上に長男D名義の牛舎及び堆肥盤を建築する目的で転用する旨、北海道知事から許可を受け、建築した。なお、本件転用に係る面積は、本件農地全体の7.45%であった。その後同様に、D名義の貯留槽も本件農地上に建築された。

また、共同相続人であるAら3人は、遺留分減殺請求訴訟を提起。釧路地裁は平成10年2月、Aらに対し農地のうち8分の3の所有権を移転する旨の判決を下した。
その後XとAらは、本件農地1~8に係るAらの共有持分と、本件農地9に係るXの共有持分を交換することで合意。これについて所轄税務署長は、平成15年6月、本件交換が租税特別措置法70条の6第1項1号の「譲渡等」に該当し、相続税の納税猶予期限が一部確定したことにより、納税猶予の一部を取り消した。なお、本件交換によりAらに移転した面積は、本件農地全体の14.22%であった。

所轄税務署長は平成26年11月、過去に建築した牛舎等がXの所有ではなく、農地の転用をしたことは「譲渡等」に該当するため、相続税の納税猶予期限が確定すること、さらに「譲渡等」の対象となった面積が本件農地全体の20%を超えるに至ったことを理由に、相続税の納税猶予期限が全部確定したとして、納税猶予をすべて取り消す旨通知をした。
Xはこの処分を不服として、不当利得返還請求訴訟を提起した。

主要な争点は、上記の本件転用及び本件交換が「譲渡等」に該当するか否か。
Xは、まず本件転用について、牛舎等の名義をDとしたのは、D名義でなければ建築資金の融資を受けられなかったため、形式的に所有名義をDとした旨を説明。借入金の返済はXがDに支払った賃借料から支出されており、これらの施設は実質的にはXの所有に属するものであるとした。その上で、Dが形式的に所有する施設の敷地利用権として本件農地の一部に使用貸借権が設定されているとみることが可能であるとしても、それを理由に相続税の納税猶予の利益を失わせることは、納税猶予制度の目的にそぐわないと主張した。
また本件交換については、亡甲の相続発生に伴って生じた本件農地の共有状態の解消に当たって、農業相続人であるXは承継すべき農地を確保することを、農業を営んでいないAらは非農地及び清算金を獲得することをそれぞれ目的としており、まさに共有物の現物分割というべきもので、交換契約又は売買契約には当たらないと指摘。本件交換は「譲渡等」には該当しないと主張した。

これについて札幌地裁は、次のように判示してXの請求を棄却した。
(1) 本件転用について
・Dは本件施設の所有者として登録され、本件施設の固定資産税を納税していることに加え、自らの所得税の青色申告決算書において、本件施設を減価償却資産として計上している。また、XはDに対し本件施設の賃料を支払っていることから、本件施設はDが所有していると認められる。
・さらに、DはXに対し、本件施設に係る賃料等を支払っておらず、本件農地の一部を無償で利用していることになるから、XはDに対し、「特例農地等」について「使用貸借による権利の設定をした」といえ、本件転用は「譲渡等」に該当するということができる。
(2) 本件交換について
・一般に資産を移転させる行為を(資産の)譲渡というところ、たとえ同時に「特例農地等」に該当しない農地を取得したとしても、「特例農地等」の所有権を第三者に移転する行為は「特例農地等」を減少させるものであって、「特例農地等」の譲渡に当たると解するのが文理解釈にかなう。
・「特例農地等」を喪失する代わりに「特例農地等」とは異なる農地を取得し、実質的には農業相続人の営農の実態に大きな変化がない場合であっても、納税猶予期限が確定する事態が生ずることとなるが、このような事態を防ぐために、買換え特例の制度が用意されているのであるから、農業相続人に大きな不利益が生ずるものではない。よって本件交換は「譲渡」に該当する。