従業員が商品を横流しして得た収益は法人に帰属せず
令和元年5月16日裁決
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従業員が会社の仕入商品を窃取し、インターネットオークションで販売して収益を得ていた。原処分庁は、収益は会社に帰属するものであり、会社は収益を帳簿書類に記載せず隠蔽していたなどとして、法人税の青色申告の承認の取消処分、法人税等及び消費税等の更正処分、重加算税等の賦課決定処分をした。審判所は、会社による隠蔽行為があったと認められず、収益は会社には帰属しないなどとして、処分の全部又は一部を取り消した。
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請求人X社は、農業機械機具の販売等を目的とする株式会社である。
X社の元従業員Aは、商品の仕入れ、在庫の管理及び商品の発送等の事務を担当していた。
Aは、インターネットオークションサービスにて、3つの個人アカウントを用いて、X社の仕入れた噴霧器、散布機、高圧洗浄機、チェーンソー、草刈機、発電機、インパクトドライバー、ゴムロール、除草剤、充電器、自動車のレーダー探知機、ドライブレコーダーを出品、販売取引を反復継続して行った。また、商品発送の送料は、X社の負担としていた。取引の落札代金は、本人名義の4つの銀行口座で受領した。
平成29年9月に、こうした一連の行為が税務調査で明るみになったため、X社はAを懲戒解雇した。
X社は、平成23年1月期~平成29年1月期までの各事業年度に係る法人税について、青色確定申告書にて、法定申告期限までにそれぞれ申告していた。この際、Aの販売取引による収益は、当然ながら課税標準等及び税額等の計算の基礎とされていなかった。ただし、X社は、棚卸資産の払出数量の算定において、棚卸減耗損の計算ができない会計処理を行っていたため、Aの販売取引に係るX社の仕入商品の取得価額は、各事業年度の所得の金額の計算上、売上原価の額として損金の額に算入されていた。
原処分庁は、Aの窃取・販売行為はX社の行為と同視できるとして、X社がこれら一連の取引を隠蔽していたなどと指摘。平成23年1月期以後の青色申告の承認の取消処分、各事業年度の法人税等の更正処分、重加算税・過少申告加算税の各賦課決定処分等を行った。
X社はこの処分を不服として、審査請求に及んだ。
審判所はまず、Aの販売取引による落札代金はX社に帰属するかについて、Aの販売取引はX社における地位及び権限に基づかずに行われたものであり、客観的にみてもX社を主体とする取引とはいえない態様で行われており、その収益もAが享受していることから、落札代金はXに帰属しないと認定した。
その上で、X社のAに対する損害賠償請求権の額として、本件各事業年度の益金の額に算入すべき金額について、Aに窃取された商品の時価と送料の合計額となるとし、その商品の時価は、落札代金等の額により計算するのが相当であるとした。
また、益金算入の時期については、損害賠償請求権はAが仕入商品をAの支配下に移した時点で発生すると解されるとし、AがX社の正規の発送商品に紛れ込ませて商品を発送した性質上、その時点を特定することは困難であるものの、各落札代金等が本件各口座に入金された時点において順次発生したと解するのが相当とし、各事業年度ごとに計算した額を損害賠償請求権の額と認定した。
ただし、Aが一連の行為を隠蔽していた行為がX社による隠蔽と評価できるか否かについて、X社の代表者や関係者がAの行為を知ったのは平成29年9月のことであり、それ以前にはその存在を知らなかったものと認められるとして、X社が「偽りその他不正の行為」により税額を免れたものとは認められないと指摘。
ゆえに、法人税の青色申告の承認取消処分を取り消すほか、法定申告期限から5年経過後の事業年度等の法人税等及び消費税等の更正処分及び重加算税の賦課決定処分の全部、法定申告期限から5年以内の事業年度等の法人税等の更正処分及び重加算税の賦課決定処分の一部並びに消費税等の更正処分及び重加算税の賦課決定処分の全部を取り消すべきと判断した。