相続税の過度の節税は総則6項適用の「特別な事情」に該当
東京地裁令和元年8月27日判決
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相続財産のうちの土地の評価方法をめぐり、課税庁から財産評価基本通達の定めにより評価することが著しく不適当として、同通達総則6項により鑑定評価によるべきとして税務否認を受けた。原告は、「時価評価に影響を及ぼさない、納税者の節税目的や租税回避の目的といった主観的要素は、総則6項を適用すべき場合に当たらない」と主張したが、東京地裁は、評価通達の定めによることが租税負担の公平を著しく害することが明らかなケースと認め、課税庁側の処分を妥当とした。
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平成24年に94歳で死亡した被相続人甲は生前、自身の相続対策の一環として、杉並区に所在するA不動産を8億3,700万円で(平成21年1月取得、銀行から6億3,000万円を借入れ)、川崎市に所在するB不動産を5億5,000万円で(平成21年12月取得、銀行等から4億2,500万円を借入れ)購入した。なお、A、B各不動産は双方ともマンション建物及び敷地である。
相続発生後、相続人であるXら5名は、評価通達の定める評価方法により、A不動産を約2億円と、B不動産を約1億3,400万円と評価して相続税の申告を行った。
しかし課税庁は、「本件各不動産の価額は評価通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる」として評価通達6項を適用し、鑑定評価によりA不動産を7億5,400万円、B不動産を5億1,900万円と評価し、平成28年4月に更正処分等を行った。
Xらはこれを不服として提訴に及んだ。
裁判で被告・課税庁は、「評価通達の定める評価方法を画一的に適用するという形式的な平等を貫くことによって、かえって租税負担の実質的な公平を著しく害することが明らかな場合には、評価通達の定める評価方法によらないことが相当と認められる特別の事情があるものとして、他の合理的な評価方法によることが認められる」として上で、XらによるA不動産の評価額は鑑定評価額の約26.5%、購入額の約23.9%にすぎず、B不動産の評価額も鑑定評価額の約25.8%、購入額の約24.3%にすぎないから、それぞれ「著しいかい離がある」とした。
また、甲は90歳であった平成20年に銀行の事業経営財務診断に申し込み、多額の借入れをして本件各不動産を取得していることから、相続税の負担の軽減策を採ったものであり、このような事態は、同様の軽減策を採らなかった他の納税者との間の租税負担の公平を著しく害するものと主張した。
これに対しXらは、評価通達6項に規定する「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる」場合とは、あくまで時価評価に影響を及ぼす特別の事情があり、実質的な課税の公平を確保できない場合を指すと解すべきと指摘。災害、地盤沈下、土壌汚染等の客観的な事情の発生に限られなくてはならず、時価評価に影響を及ぼすことのない、納税者等の節税目的や租税回避の目的といった主観的要素又は相続開始前後の一連の行為は、上記の特別な事情を基礎付けるものではないと反論した。
東京地裁は、「特定の納税者あるいは特定の財産についてのみ、評価通達の定める評価方法以外の方法によってその価額を評価することは、原則として許されない」としながらも、評価通達の定める評価方法を形式的に全ての納税者に係る全ての財産の価額の評価において用いるという形式的な平等を貫くことによって、かえって租税負担の実質的な公平を著しく害することが明らかである特別の事情がある場合には、他の合理的な方法によって評価することが許されるものと解すべきであるとした。
その上で、本件の場合上記「特別の事情」があるか否かについて検討したところ、被告が指摘したように評価通達による評価が鑑定評価額の約4分の1にとどまっていることから、相応の疑義があるといわざるを得ないとした。
また、90歳を超えた甲が多額の借入れをした上で各不動産を購入している行為については、もし借入れ及び各不動産の購入がなければ、本件相続に係る課税価格は6億円を超えるものであったにもかかわらず、本件申告による課税価格は約2,800万円にとどまるものとされたことを鑑みれば、甲及びXらは近い将来発生が予想される相続において、相続税の負担を減じ又は免れさせることを知り、かつそれを期待して、あえてそれを企画して実行したと認められると認定した。
これらの事実関係に照らし、本件の場合は「評価通達の定める評価方法以外の方法によって評価すること」が許されるというべきと判断。総則6項の適用を適法として、Xらの請求をすべて棄却した。