資本関係5年超の適格合併でも一般的否認規定適用(TPR事件/上)
東京地裁令和元年6月27日判決
---------------------------------------------------------
合併の5年超前から特定資本関係にある子会社を吸収合併した親会社に対し、法人税法132条の2の一般的否認規定を適用し、子会社欠損金の損金算入を否認した。親会社は、法人税法57条3項の個別的否認規定の適用を除外されるケースには、一般的否認規定は適用され得ないと反論したが、東京地裁の判断は、国側の主張を全面的に認めるものとなった。
---------------------------------------------------------
自動車部品等の製造・販売を営むX社は、平成14年2月、非鉄金属製品製造・販売業の旧C社の発行済株式総数の3分の2を取得。その後、平成15年3月には、X社は旧C社の全株式を保有することになった。
それから6年半経過後の平成21年9月末時点で、旧C社は業績不振のため、約1億1,400万円の債務超過に陥っていた。同年12月、X社では旧C社を吸収合併する計画が審議され、平成22年3月1日付で吸収合併した。
この際、X社は新たに新C社を設立し、旧C社の従業員を転籍させた上で吸収合併。そして旧C社から引き継いだ資産を新C社に譲渡・賃貸した。
その後X社は、法人税法57条(青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越し)2項に基づき、旧C社の未処理欠損金をX社の前7年内事業年度において生じた欠損金額とみなして、平成22年3月期に約6億1,700万円、平成23年3月期に約5億5,900万円を損金の額に算
入の上、法人税の確定申告を行った。しかし、課税庁は法人税法132条の2の一般的否認規定を用いてこれを否認。各期の更正処分、過少申告加算税の賦課決定処分を行ったため、X社はこれを不服として争訟に発展した。
本裁判の第一の争点は、特定資本関係が合併に係る事業年度開始の日の5年前の日より前に生じている場合、すなわち法人税法57条3項の適用が除外される適格合併に当たる場合に、132条の2の一般的否認規定を適用できるか否か。
法人税法57条3項は、適格合併に係る被合併法人と合併法人との間に特定資本関係(50%超の持株関係)があり、かつ、その特定資本関係が合併事業年度開始の日の5年前の日以後に生じている場合は、共同事業要件を充足しない限り、被合併法人の特定資本関係事業年度前の各事業年度前7年(現10年)内事業年度に該当する事業年度において生じた欠損金額等は、合併法人の欠損金額に含まないという規定だ(特定資本関係5年超要件)。
X社は、57条3項のような個別的否認規定が設けられている類型の組織再編成に関しては、当該個別的否認規定に、租税回避行為として否認するための要件が全て書き尽くされており、この要件をクリアしている本件合併に対し、さらに一般的否認規定である132条の2を適用することが可能とする法解釈は、過度に広汎で曖昧な解釈を許容するものであり、課税要件明確主義に反すると主張した。
東京地裁は、まず、法人税法57条3項の規定について、「未処理欠損金額を有するグループ外の法人をいったんグループ内の法人に取り込んだ上で組織再編成を行うといった租税回避行為を防止するために設けられた規定」と整理した上で、同項は未処理欠損金額を利用したあらゆる租税回避行為をあらかじめ想定して網羅的に定めたものとはいい難く、実際にも、特定資本関係5年超要件を満たす適格合併等であっても、法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められる行為又は計算が行われる場合が想定されないとはいい難いと指摘。
そうすると、同項はむしろ、典型的な租税回避行為としてあらかじめ想定されるものを対象として定めた具体的な否認規定にすぎないものと理解するのが自然とした。
そうすると、法人税法57条3項は同条2項に関する否認とその例外の要件を「全て書き尽くしたもの」とはいえず、特定資本関係5年以下と5年超の組織再編成を区別して規定しているからといって、特定資本関係5年超の組織再編成について一般的否認規定の適用が排除されているとはいえないと判断、X社の主張を斥けた。