同族会社の行為計算否認で納税者勝訴(ユニバーサルミュージック事件)
東京地裁令和元年6月27日判決
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世界的企業の日本法人がグループ企業から資金の融資を受け、その支払利息を損金の額に算入したところ、同族会社の行為計算否認規定により損金算入を否認された。この取引に経済的合理性があるか否かが争われたが、東京地裁は「グループ会社の資本関係の整理や財務態勢強化の観点から、経済的合理性を有する」と判断、課税処分をすべて取り消した。
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世界的音楽会社ユニバーサルミュージックなどを傘下にもつフランス資本のヴィヴェンディ・グループは、2008年10月、オランダ法人A社の100%子会社としてX社を日本に設立した(当初資本金200万円)。その直後、X社はA社から約295億円の追加出資を受けるとともに、フランス法人B社から約867億円の融資を受け、オランダ法人C社から日本法人D社の全株式を約1,144億円で取得、同社を吸収合併した(A社~D社はすべてグループ内法人)。
X社は、上記B社からの借入金に係る支払利息につき、平成20年12月期から平成24年12月期までの各事業年度の法人税の確定申告において損金に算入したところ、課税庁はこの取引を法人税法132条の同族会社の行為計算否認規定により否認、更正処分等を行った。X社はこれを不服として提訴に及んだ。
主要争点である「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」の該当性について、課税庁は、(a)本件一連の取引はグループ内の資金還流を前提として初めて実行可能なものであり、ヴィヴェンディがX社の意思決定を自由に支配し得るという同族会社であればこそ実現可能なものである、(b)D社及びX社では本件借入れにより多額の負債が発生したにもかかわらず、それに見合うだけの資産や収益等が生ずることはなく、利益の減少だけが見込まれることとなり、経済的、実質的見地から客観的に見て経済合理性を欠くことは明らかである、などと主張した。
一方X社は、本件一連の取引は、(ア)ヴィヴェンディ・グループが全世界で買収を重ねた結果錯綜したグループ内の関連会社の関係を整理して事業を効率化するとともに財務上の利益を図るために実施されたものであり、(イ)オランダ法人の負債軽減、日本法人の経営の合理化、日本法人の財務の合理化など、8つの目的を同時に達成するために行われたものであるため、経済的合理性があるなどと反論した。
東京地裁は、以下のように認定して「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」には該当しないと判断した。
(1) 本件借入れの原因となった上記(イ)に掲げる8つの目的は、日本の関連会社に係る資本関係の整理や同グループの財務態勢の強化等の観点からいずれも経済的合理性を有するものであり、かつ、これらの目的を同時に達成しようとしたことも経済的合理性を有するものであったと認められる。
(2) 本件組織再編等スキームに基づく本件組織再編取引等は、これらの目的を達成する手段として相当であったと認められる。
(3) 本件組織再編取引等によるこれらの目的の達成はX社にとっても経済的利益をもたらすものであったといえる一方、本件借入れがX社に不当な経済的不利益をもたらすものであったとはいえない。