重機の売却益は「非経常的な利益」に該当せず
東京地裁令和元年5月14日判決
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非上場株式の評価において、評価会社の固定資産である重機を売却したことによる利益は、類似業種比準価額算定上の「1株当たりの利益金額」から除外する「非経常的な利益」に該当するか否かが争われた事例で、東京地裁は、その金額規模や売却の頻度等から「非経常的な利益」とはいえないと判断、納税者の請求を棄却した。
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クレーン車のレンタル等を業とするK社の代表者甲には、Xら3人の相続人があった。甲の死亡に伴い、XらはK社の株式を相続、法定申告期限内である平成25年2月に相続税の申告をした。
K社株式の評価に当たってXらは、同社が会社規模区分上の大会社に該当したことから、類似業種比準価額方式を採用。K社ではクレーン車のレンタルやオペレーターの派遣業務の他、しばしばクレーン車そのものを売却することにより利益を得ていたが、これについては固定資産の売却益として「特別利益」に計上していたため、株価算定上の「1株当たりの利益金額」からは除外する「非経常的な利益」として扱った。
処分行政庁は平成28年6月及び10月、XらによるK社株式の評価は誤っているとして否認、更正処分等を行ったことから、評価の適否をめぐって裁判に発展した。
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(評価会社の1株当たりの配当金額等の計算)
183 略
(2) 「1株当たりの利益金額」は、直前期末以前1年間における法人税の課税所得金額(固定資産売却益、保険差益等の非経常的な利益の金額を除く。)に、その所得の計算上益金に算入されなかった剰余金の配当(…)等の金額(…)及び損金に算入された繰越欠損金の控除額を加算した金額(…)を、直前期末における発行済株式数で除して計算した金額とする。(以下略)
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争点は、クレーン車売却益が上記通達の「非経常的な利益」に該当するか否かだ。
国側は、「非経常的な利益」とは偶発的な利益であり、固定資産売却益や保険差益は通常は偶発的な取引であることから例示されているにすぎず、固定資産売却益であっても毎期継続的に売買が繰り返されるような場合は非経常的な利益とはいえない、と主張。
これに対しXらは、通達に照らし本件売却益は非経常的な利益に該当すること、クレーン車の売買は製造業者による下取りや同業他社からの売却依頼など予見可能性のない偶発的なものであったこと、実際にクレーン車の売却価格が購入価格を上回ることはなく、利ざやを稼ぐことはできなかったことなどから、「非経常的な利益」に該当すると反論した。
東京地裁は、まず評価通達183(2)の解釈については、「固定資産売却益であっても、毎期継続的に売買が繰り返されるような固定資産の売却益の場合には、その利益が会社の経常的収益力を構成することは明らかであるから、固定資産売却益が常に非経常的な利益に当たることを定めたものと解することはできない」としてXらの主張を否認。
その上で、(1)平成21年3月期から平成26年3月期までのクレーン車の売却益は約1億5,000万円~約16億円で、K社の営業利益の約23%~約341%を占めていたこと、(2)クレーン事業はそれ単体では赤字が膨らむ一方であり、クレーン車の売却によって初めて利益が生じるものとなっていたこと、(3)クレーン車10台~34台の売買を毎期反復継続的に繰り返していたことなどから、クレーン車の売却益がK社の重要な収益源であり、経常的収益力を構成するものと認められ、通達の「非経常的な利益」には該当しないというべきと判断。Xらの請求を棄却した。