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注目判決・裁決例(最高裁令和2年3月24日判決)

2020年07月03日
最高裁、取引相場のない株式の評価で高裁判決を破棄差戻し
最高裁令和2年3月24日判決
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被相続人が行った非上場株式の譲渡価額が、時価の2分の1以下による譲渡、いわゆる「低額譲渡」に該当したものとみなされ、その差額について課税処分が行われた。納税者側は「配当還元方式」による評価、当局側は「類似業種比準方式」による評価を主張し、一審では当局側に、控訴審では納税者側に軍配が上がった。今回の最高裁は、「高裁判決は所得税法59条1項の解釈適用を誤っている」として破棄、差し戻した。
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A社の代表取締役甲は、平成19年8月、所有するA社株式のうち72万5,000株をB社に譲渡した。
この株式譲渡により、議決権の割合は、[甲:15.88%、甲と同族関係者:22.79%、B社:0%]から[甲:8.0%、甲と同族関係者:14.91%、B社:7.88%]となった。
同年12月に甲は死亡。相続人であるXらは、上記株式譲渡のあった平成19年分の甲の所得税納付義務を承継し、A社株式の譲渡所得を申告した。なお、譲渡所得の収入金額は実際の譲渡対価である1株当たり75円で計算。この75円という金額は、配当還元方式をもとに算定した株価であった。
平成22年4月、鶴見税務署長は上記申告について、「A社株式の譲渡時の時価は類似業種比準方式により1株当たり2,990円と算定される」として更正処分、過少申告加算税の賦課決定処分を行った(その後の異議決定により2,505円に減額)。Xらはこの処分を不服として、提訴に及んだ。

主要な争点は、「A社株式譲渡が所得税法59条1項2号の低額譲渡に当たるか」。具体的にはA社株式の評価は、配当還元方式によるべきか、類似業種比準方式によるべきかだ。
まず、配当還元方式が適用できる「同族株主以外の株主」に該当するか否かについて、財産評価基本通達では以下のように定めている。
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(同族株主以外の株主等が取得した株式)
188 178(取引相場のない株式の評価上の区分)の「同族株主以外の株主等が取得した株式」は、次のいずれかに該当する株式をいい、その株式の価額は、次項の定めによる。
(1) 同族株主のいる会社の株式のうち、同族株主以外の株主の取得した株式(以下略)
(2) 中心的な同族株主のいる会社の株主のうち、中心的な同族株主以外の同族株主で、その者の株式取得後の議決権の数がその会社の議決権総数の5%未満であるもの(略)の取得した株式(以下略)
(3) 同族株主のいない会社の株主のうち、課税時期において株主の1人及びその同族関係者の有する議決権の合計数が、その会社の議決権総数の15%未満である場合におけるその株主の取得した株式
(4) 中心的な株主がおり、かつ、同族株主のいない会社の株主のうち、課税時期において株主の1人及びその同族関係者の有する議決権の合計数がその会社の議決権総数の15%以上である場合におけるその株主で、その者の株式取得後の議決権の数がその会社の議決権総数の5%未満であるもの(略)の取得した株式(以下略)
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もちろん、この通達は取引相場のない株式の相続評価についての定めであり、株式の譲渡に関しては、所得税基本通達59-6を参照すべきである。
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(株式等を贈与等した場合の「その時における価額」)
59-6 法第59条第1項の規定の適用に当たって、譲渡所得の基因となる資産が株式(略)である場合の同項に規定する「その時における価額」とは、23~35共-9に準じて算定した価額による。この場合、23~35共-9の(4)ニに定める「1株又は1口当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額」とは、原則として、次によることを条件に、昭和39年4月25日付直資56・直審(資)17「財産評価基本通達」(法令解釈通達)の178から189-7まで(取引相場のない株式の評価)の例により算定した価額とする。
(1) 財産評価基本通達188の(1)に定める「同族株主」に該当するかどうかは、株式を譲渡又は贈与した個人の当該譲渡又は贈与直前の議決権の数により判定すること。
(以下略)
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この通達では、評価通達188(1)に定める同族株主に該当するかどうかは「譲渡直前の議決権割合」により判定することが明記されている。当局側は本件の場合も、「譲渡直前の議決権割合」により
判定すべきとした。
これに対しXらは、A社の株主区分は188(3)に該当するが、所得税基本通達59-6(1)が「譲渡直前の議決権割合」としているのは188(1)のみであり、188(3)の判定においては「譲渡後の譲受人の議決権割合」により判定すべきであると主張した。

これについて一審の東京地裁平成29年8月30日判決では、「188(1)と188(3)で異なる判断基準を混在させることに合理的な理由は見出し難い」として、当局側の主張を採用した。

Xらの控訴を受けた東京高裁平成30年7月19日判決は、評価通達188(1)のみではなく(2)~(4)についても「譲渡直前の議決権割合」により判定すべきという当局の主張に対して、(2)~(4)には「株式取得後」、「取得した株式」という文言があり、株式譲渡後の譲受人の議決権割合を述べていることは明らかと指摘。その上で、当局側のように主張するためには、「株式取得後」を「株式譲渡前」と読み替える必要があるが、そのような通達はない。「租税法規の解釈は原則として文理解釈によるべきであり、みだりに拡張解釈や類推解釈をすべきでない」として、188(3)においては、文言どおり、株式の取得後の議決権割合により判定されるものと解するのが相当とした。
そして、この基準によればA社株式は188(3)の株式に該当するから、配当還元方式によって評価すべきとして、当局側の処分を違法と認めた。

そして今回、当局側の上告を受けた最高裁は、まず、株式評価における相続税と所得税の視点の違いを整理。
(a) 相続税・贈与税においては、株式を取得した株主(譲受人)の会社への支配力に着目して、配当還元方式を用いるか否かを判定する。
(b) 譲渡所得課税においては、譲受人の会社への支配力の程度は譲渡人の下に生じている増加益の額に影響を及ぼすものではなく、譲渡人の会社への支配力の程度に応じた評価方法を用いるべきものと解される。
つまり、譲渡所得に対する課税の場面においては、評価通達の定めをそのまま用いることはできず、所得税法の趣旨に即し、その差異に応じた取扱いがされるべきと指摘した。
この点で原審・東京高裁判決は、株式の譲受人であるB社が評価通達188(3)の少数株主に該当することを理由として、配当還元方式により算定した額が「株式譲渡の時における価額」としたものであり、この原審の判断には所得税法59条1項の解釈適用を誤った違法があると判断。原判決中当局の敗訴部分を破棄し、東京高裁に差し戻した。