高額買取りした土地の時価差額部分は売上原価に算入できず
東京地裁令和元年10月18日判決
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貸付金の相殺を目的として時価よりも高額で土地を買い取った不動産業者が、その土地を売却した際に買取価額をそのまま売上原価に計上したところ、「時価との差額部分は売上原価に計上できない」として否認を受けた。東京地裁は、時価との差額部分は経済的利益の無償の供与に該当するため、損金の額には算入できないとして課税処分を適法と認めた。
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不動産業を営むX社は、平成21年8月期末において、A社に対して貸付金約1億8,400万円を有していた。X社とA社は協議して、A社所有の土地(時価約7,300万円)を1億8,400万円で買い取ることにより債務を相殺する旨の合意をし、平成22年6月に売買を実施した。
X社はその後その土地を合筆・分筆した上、10名に対し計約4,900万円で売却。平成23年8月期の法人税の確定申告において、本件土地の買取価額(1億8,400万円)全額を売上原価に計上し、欠損の申告を行った。
平成29年3月、津山税務署長は、「1億8,400万円と7,300万円との差額約1億1,100万円は売上原価として損金の額に算入することはできない」として否認。更正処分等を行ったため、X社はこれを不服として提訴した。
裁判でX社は、A社からの本件土地の売買は高額譲受けではあるが、A社は債務超過の状態が相当期間継続しており、X社は巨額の債権を弁済の見込みがないまま抱え続けなければならないという「より大きな損失を被る」ことが明らかであったため、時価との差額はやむを得ない負担であり、寄附金には該当しないと指摘。寄附金に該当しない以上、原則どおり売上原価として損金の額に算入されると主張した。
これに対し国側は、時価との差額部分は棚卸資産の購入の代価としての性質を欠いており、X社からA社への対価のない経済的利益の移転であり、贈与と同視することができ、売上原価として損金の額に算入することはできないと反論した。
東京地裁は、法人税法37条8項の規定について、同項は、例えば時価よりも低額の売買代金により法人所有の不動産等の資産を売却した場合に、当該法律行為は私法上の性質としては売買契約であることを前提に、売買代金と時価との差額は売主から買主に供与された「経済的な利益」であり、そのうち「実質的に贈与又は無償の供与をしたと認められる金額」については、「経済的な利益の無償の供与」をした場合における経済的な利益の時価として、法人税法37条7項が定義する「寄附金の額」に該当することから、当該金額が損金算入限度額を超えて損金の額に算入されないものであることを確認的に規定したものと整理。
逆に、本件のように時価よりも高額で資産を購入した場合も、買主から売主に供与された経済的利益と解することができ、「寄附金の額」に該当することになるから、時価との差額は損金算入限度額を超えて損金の額に算入されないこととなるものと解されるとした。
そうすると、棚卸資産の高額譲受けにおいても、時価との差額については、その全部又は一部が「寄附金の額」と評価される場合には、損金算入が制限されるのであるから、そのような扱いを受ける差額部分は、資産の販売の収益に係る費用として当然に損金の額に算入される売上原価とは異質なものといわざるを得ないと判断。本件差額を損金の額に算入することはできないとした。
なお、X社の「より大きな損失を被る」ことが明らかであったため、寄附金に該当しないとする主張については、仮に本件差額が寄附金の額に該当せず何らかの費用又は損失として損金の額に算入すべきであるとしても、それは平成23年8月期ではなく、平成22年8月期の損金の額に算入すべきであると判示した。