ポイント未払計上額は債務確定しておらず損金算入は不可
東京地裁令和元年10月24日判決
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顧客が商品を購入するごとにポイントを付与していた企業が、期末において未払となっていた部分につき損金計上していたところ、税務署から「債務として確定していないため、損金計上できない」として否認された。東京地裁は、本件未払計上額は法人税基本通達2-2-12に定める債務確定要件を満たしていないと判断、課税処分を適法と認めた。
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アニメキャラクターの企画・販売等を行うX社は、自社経営する各店舗でポイント制を導入。
顧客が商品を購入するごとに、5%相当の還元率で、次回購入の際に値引きあるいは景品交換ができるというもので、ポイントカードの最終利用日から2年を過ぎると蓄積されたポイントはすべて失効するというシステムだった。
X社は、ポイントの未使用分について「未払計上額」として損金計上し、法人税等の確定申告を行っていた。この処理について豊島税務署長は平成28年1月、本件ポイント未使用分につき債務が確定しているとは認められないとして、平成22年10月期から平成26年10月期までの5事業年度分について更正処分等を行った。X社はこれを不服として裁判に及んだ。
裁判で課税庁側は、本件ポイント未払計上額は法人税基本通達2-2-12(1)~(3)に定める債務確定基準を満たしていないと主張した。
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(債務の確定の判定)
2-2-12 法第22条第3項第2号《損金の額に算入される販売費等》の償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務が確定しているものとは、別に定めるものを除き、次に掲げる要件の全てに該当するものとする。
(1) 当該事業年度終了の日までに当該費用に係る債務が成立していること。
(2) 当該事業年度終了の日までに当該債務に基づいて具体的な給付をすべき原因となる事実が発生していること。
(3) 当該事業年度終了の日までにその金額を合理的に算定することができるものであること。
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まず、(1)の基準については、X社が事業年度終了の日において有していた本件ポイント未払計上額に係る債務は、当該ポイントが使用されるか否か、使用される場合にいつどの商品等の購入において使用されるものかすら確定しておらず、給付の内容が確定したものとはいえないため、債務が成立しているとはいえないとした。
次に、ポイントの使用について具体的原因事実が発生するのは次回購入の時点であるから、(2)の基準も満たしておらず、当該債務の金額を合理的に算定することができないから、(3)の基準も満たしていないと指摘した。
これに対しX社は、(1)の基準について、本件ポイントは「企業通貨」として付与されるものであり、カード会員は代金充当や景品交換に任意に使用できるものであることを強調。民法上、給付の内容は債権成立の時に具体的に確定する必要はないとされていることからすれば、初回購入時に本件ポイントシステムに係る契約関係がX社とカード会員との間で成立し、ポイントの使用に係る債務が成立しているというべきであると主張した。
また(2)の基準については、本件ポイントシステムにおいては、初回購入によりカード会員は次回購入時の代金充当又は景品交換を請求できる権利を取得するところ、これを行使するに当たり実質的な障害は存在せず、形式的な手続のみで使用することができるのであるから、ポイントの付与をもって具体的原因事実が発生したというべきとした。
さらに(3)の基準については、1ポイント当たり1円として換算することにより金額を算定することができ、合理的な算定は可能であるとした。
東京地裁は、カード会員の初回購入時に付与されたポイントは、2年の期間内に失効して使用されなくなる可能性もある上、期間内に使用されるとしても、いつどのような内容(代金充当か、景品交換か、景品交換の場合どの景品と交換するか)を選択するかによって、費用の発生する時期や金額が異なってくるものといえると指摘。
そうすると、カード会員にポイントが付与された時点では、仮にその時点でX社の主張する債務が成立しているとしても、次回購入時における選択がされない限り、その債務に基づいて給付をすべき具体的内容が明らかにならないため、これに伴う費用が発生したとはいえず、その費用の金額を合理的に算定することができるともいえないとした。
よって、本件ポイント未払計上額については債務が確定していないものというほかないから、これを損金の額に算入することはできないと判断し、X社の請求を棄却した。