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注目判決・裁決例(東京地裁令和2年1月30日判決)

2020年10月21日
個人事業者である麻酔医の施術対価は概算経費NO、消費税は課税
東京地裁令和2年1月30日判決
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個人でクリニックを経営していた医師が、他病院で行われた手術に麻酔専門医として施術行為をしており、その対価については事業所得の計算上、「社会保険診療につき支払を受けるべき金額」として概算経費額を必要経費に算入するとともに、消費税の計算上は「非課税資産の譲渡等」に該当するとして申告をしていなかった。これらの税務処理が税務署長から否認され争いとなったが、東京地裁は、医師が「自ら主体として療養の給付を行った」とは認められないとして、課税庁の処分を適法と認めた。
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医師のXは、個人でクリニックを経営する傍ら、複数の病院で手術が行われる際に麻酔専門医として施術を行っていた。各病院との間では業務委託契約を締結し、麻酔施術の対価として同契約所定の報酬を各病院から受け取っていた。
Xはこれら他の病院での施術に係る報酬について、事業所得の計算上、租税特別措置法26条1項にいう「社会保険診療につき支払を受けるべき金額」に該当することを前提に、概算経費率を乗じて計算した金額を必要経費に算入していた。
また、消費税の計算においては、本件役務提供が消費税法別表第1の6号に掲げる資産の譲渡等に該当し、非課税になることを前提に確定申告を行っていなかった。
これに対し戸塚税務署長は、平成27年2月、上記Xの事業所得の計算上、本件各報酬は「社会保険診療につき支払を受けるべき金額」に該当しないとして、概算経費額を必要経費に算入することができないとして所得税等の更正処分等を行った。また、消費税の計算上も、本件役務提供の対価が非課税にならないとして、消費税等の決定処分等を行った。
Xはこれらの処分を不服として、提訴に及んだ。

争点は、(1)本件各報酬は、租税特別措置法26条1項にいう「社会保険診療につき支払を受けるべき金額」に該当するか否か、及び(2)本件役務提供は、消費税法6条1項、別表第1第6号に規定する非課税資産の譲渡等に該当するか否か、である。

東京地裁は、上記(1)について、まず、手術は保険医療機関である各病院において実施されたものであるが、麻酔施術は同じく保険医療機関であるクリニックを経営するXが行ったものであるため、「Xが自ら主体として療養の給付を行った」ものと評価することができるか、すなわち、「Xは麻酔施術に係る社会保険診療につき支払を受けるべき地位にあるのか」という点にポイントを絞った。
その上で、現行社会保険法においては、医療サービス給付の主体は保険医療機関が担当するという「機関指定制度」が採用されており、「人と物とが結合された組織体である保険医療機関が療養の給付の担い手」とされていると指摘。
そうすると、複数の保険医療機関が関与する場合、一方の保険医療機関のみならず他方の保険医療機関も自ら主体となって療養の給付を行ったと評価されるためには、医師等が患者の治療のために行った行為の具体的内容及びその関与の程度、物的設備等の負担の有無及び程度、治療に関与することになった経緯及び双方の保険医療機関の関係等の事情を考慮して、他方の保険医療機関における関与が、自ら主体となって医療サービスの給付を行ったものと評価することができるか否かという観点から判断することが相当と示唆した。
そして、本件各病院は、手術の実施に当たり、執刀医、看護師や臨床工学技士など、麻酔を担当する医師を除くすべての医療従事者を提供しているほか、手術に必要な設備や器具、薬剤等についてもすべて用意し提供しているのであるから、本件各病院が主体となって手術を実施したものであることは明らかであるとし、一方Xの関与は、各種の医療行為の一環として麻酔施術を行ったにとどまると判断。Xが自ら主体となって医療サービスの給付を行ったと評価することはできないから、社会保険診療につき支払を受けるべき地位にあるとはいえず、本件各報酬の概算経費額は必要経費に算入することができないとした処分は適法であるとした。
また、上記(2)については、上記(1)で説示したとおり、Xは自ら主体として療養の給付を行ったとは認められないから、本件役務提供は非課税資産の譲渡等に該当しないと判断。Xの請求をすべて棄却した。