移転価格税制―残余利益分割法による算定は適法と判断
東京地裁令和2年2月28日判決
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国外の関連会社に工業製品の製造ノウハウを提供していた企業に対し、残余利益分割法等を用いて算定した独立企業間価格をもとに移転価格税制を適用した事案で、基本三法ではなく残余利益分割法等を用いて独立企業間価格を算定するのは違法であるとして納税者が
提訴。東京地裁は、残余利益分割法等による算定は合理的であり、違法ではないとして納税者の請求を棄却した。
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めっき薬品の製造・販売等を業とするX社は、台湾、中国、シンガポール、韓国等に発行済株式総数の50%以上ないし100%を保有する関連会社をそれぞれ有し、各国外関連会社はX社から製造・販売に関する無形資産(ノウハウ、特許権等)の使用許諾を受けていた。
東税務署長は、X社と台湾法人である国外関連会社A社との間の使用許諾取引について、X社がA社から支払を受けた対価の額が残余利益分割法及び残余利益分割法と同等の方法を用いて算定した独立企業間価格に満たないとして、独立企業間価格に引き直して算定し、課税処分を行った。
X社はこの処分を不服とし、独立企業間価格の算定は基本三法又は基本三法と同等の方法が優先的に用いられるべきであり、残余利益分割法及び残余利益分割法と同等の方法を用いて算定することは違法であるなどと主張して裁判に及んだ。
X社は、独立企業間価格を算定するにつき基本三法又は基本三法と同等の方法を用いることの可否(争点1-1)について、基本三法と同等の方法のうちの一つである「独立価格比準法と同等の方法」を用いて本件取引を構成する個別の使用許諾取引の独立企業間価格を算定することができると主張。
これについて東京地裁は、独立価格比準法と同等の方法を用いる場合には、比較対象取引に係る無形資産が国外関連取引に係る無形資産と同種であるとともに、使用許諾の時期、期間等の条件が同様であることを要すると指摘した。
この点、X社とA社の取引と、比較対象取引とされるX社と韓国の非関連者であるB社との取引は「同種」とは認め難く、同様の状況下でされたものとも認め難いことから、独立価格比準法と同等の方法を用いて独立企業間価格を算定することはできないと判断した。
また、残余利益分割法及び残余利益分割法と同等の方法を用いることの可否(争点1-2)については、これらの方法は残余利益を重要な無形資産の価値に応じて合理的に配分することをその特徴の一つとするものであるから、適用対象法人及び国外関連者の双方が独自の重要な無形資産を有する場合には、その独自の重要な無形資産の貢献を分割要因に反映することができる点で合理的な算定手法であると認めた。
その上で、X社及びA社の双方が重要な無形資産を有し、各無形資産が利益の獲得に寄与していると認められるから、残余利益分割法及び残余利益分割法と同等の方法を用いて独立企業間価格を算定することは合理的と指摘。
さらに、それ以外の適切な方法が存する具体的な蓋然性があることをうかがわせる事情等は見当たらないから、課税庁が残余利益分割法及び残余利益分割法と同等の方法を用いて独立企業間価格を算定したことは適法であると判断。X社の請求を棄却した。