遺言の成立日と異なる日付の遺言も無効とはならず
最高裁令和3年1月18日判決
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被相続人が生前に病院で遺言書を作成し、退院後に押印。遺言書の日付は作成日であったが、遺言が成立したのは押印日であるため、遺言そのものが無効として訴えられた。名古屋高裁は無効を主張する相続人に軍配を上げたのだが、最高裁は「日付が相違するからといって、直ちに無効となるものではない」と判示して原審判決を破棄差戻しした。
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被相続人甲は平成27年4月13日、入院先の病院で、内縁の妻AとAとの間の子に財産を遺贈又は相続させる旨の自筆証書遺言を作成した。その後甲は退院し、9日後の同年5月10日に弁護士立会いの下、遺言書に押印。3日後の13日に死亡した。
甲の相続人である妻Xとその子らは、本件遺言書には遺言が成立した日と相違する日の日付が記載されており、無効であるとして訴訟を提起した。
原審・名古屋高裁平成30年10月26日判決では、自筆証書遺言には真実遺言が成立した日の日付を記載しなければならず、本件遺言書には押印がされた平成27年5月10日の日付を記載すべきであったと指摘した上で、甲が誤って「平成27年4月13日」と記載したとは認められないとして、本件遺言は無効であると結論付けた。
A側の上告を受けた最高裁は、本件遺言が成立した日は押印がされて遺言が完成した平成27年5月10日というべきとした上で、民法968条1項が自筆証書遺言の方式として、遺言の全文、日付及び氏名の自書並びに押印を要するとした趣旨は、遺言者の真意を確保すること等にあるところ、必要以上に遺言の方式を厳格に解するときは、かえって遺言者の真意の実現を阻害するおそれがあると強調した。
したがって、甲が入院中に本件遺言の全文、日付及び氏名を自書し、退院して9日後に押印したなどの本件の事実関係の下では、本件遺言書に真実遺言が成立した日と相違する日の日付が記載されているからといって直ちに本件遺言が無効となるものではないというべきと判断。原判決を破棄し、名古屋高裁に差し戻した。