行為計算否認の不当性要件について判断(ユニバーサルミュージック事件)
東京高裁令和2年6月24日判決
---------------------------------------------------------
世界的企業の日本法人がグループ企業から資金の融資を受け、その支払利息を損金の額に算入したところ、同族会社の行為計算否認規定により損金算入を否認された。一審の東京地裁は「グループ会社の資本関係の整理や財務態勢強化の観点から、経済的合理性を有する」と判断、課税処分をすべて取り消した。国側の控訴を受けた二審・東京高裁でも、行為計算否認の不当性要件に該当することを前提とした課税処分は違法と判断した。
---------------------------------------------------------
世界的音楽会社ユニバーサルミュージックなどを傘下にもつフランス資本のヴィヴェンディ・グループは、2008年10月、オランダ法人A社の100%子会社としてX社を日本に設立した(当初資本金200万円)。その直後、X社はA社から約295億円の追加出資を受けるとともに、フランス法人B社から約867億円の融資を受け、オランダ法人C社から日本法人D社の全株式を約1,144億円で取得、同社を吸収合併した(A社~D社はすべてグループ内法人)。
X社は、上記B社からの借入金に係る支払利息につき、平成20年12月期から平成24年12月期までの各事業年度の法人税の確定申告において損金に算入したところ、課税庁はこの取引を法人税法132条の同族会社の行為計算否認規定により否認、更正処分等を行った。X社はこれを不服として提訴に及んだ。
一審・東京地裁令和元年6月27日判決では、主要争点である「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」(不当性要件)の該当性について、以下のように認定して「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」には該当しないと判断した。
(1) 本件借入れの原因となった、オランダ法人の負債軽減、日本法人の経営の合理化、日本法人の財務の合理化など「8つの目的」は、日本の関連会社に係る資本関係の整理や同グループの財務態勢の強化等の観点からいずれも経済的合理性を有するものであり、かつ、これらの目的を同時に達成しようとしたことも経済的合理性を有するものであったと認められる。
(2) 本件組織再編等スキームに基づく本件組織再編取引等は、これらの目的を達成する手段として相当であったと認められる。
(3) 本件組織再編取引等によるこれらの目的の達成はX社にとっても経済的利益をもたらすものであったといえる一方、本件借入れがX社に不当な経済的不利益をもたらすものであったとはいえない。
国側の控訴を受けた二審・東京高裁では、不当性要件について以下のように判示して、原審の判断を支持した。
(a) X社は不当性要件につき、経済合理性基準を踏まえて、法人税の負担が減少するという利益を除けばその行為計算によって得られる経済的利益がおよそないといえるか、あるいは、その行為・計算を行う必要性を全く欠いているといえるかという観点から判断すべきと主張するが、このような観点から不当性要件該当性を判断することになれば、その行為・計算を行う必要性のほとんどが租税回避目的であって、税負担の減少以外の経済的利益がごく僅かである場合でも、経済的合理性があるとされかねない。よってX社のこの主張は採用できない。
(b) 一方国側は、正当で合理的な事業目的等が具体的かつ客観的に示されなければならないと主張するが、そもそも何をもって事業目的等が具体的かつ客観的に示されたというのかが一義的なものとはいい難い上、そのように限定をすることが相当ともいえず、国側の主張も採用できない。
(c) 本件組織再編取引等は、上記(1)の8つの目的をみても不自然なものではなく、税負担の減少以外にこれを行うことの合理的な理由となる事業目的その他の事由が存在するといえる。
また、本件借入れに関する事情も、専ら経済的、実質的見地において純粋経済人として不自然、不合理なもの、すなわち経済的合理性を欠くものであるというべき事情は見当たらない。