利益剰余金・資本剰余金双方原資の配当は「資本の払戻し」
最高裁令和3年3月11日判決
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海外子会社からの配当が利益剰余金と資本剰余金の双方を原資とする場合、その配当は1個の「資本配当」か、「資本配当」と「利益配当」のそれぞれ別個独立した配当かが争われた事案で、最高裁は、「別個独立のもの」と判断した原審・東京高裁判決を覆し、「資本の払戻し」と判断した。また、資本の払戻金額に係る計算方法を定めた法人税法施行令23条1項3号(現4号)は「違法なものであり無効」と結論付けた。
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被上告人のX社は、平成24年11月12日、米国子会社A社からの約6億4,000万ドルの配当について、「資本の払戻しとして1億ドル(79.5億円)の分配」、「留保利益から5億4,000万ドル(432.5億円)の分配」をすることの決議書を取り交わし、同月14日、同額の送金を受けた上、「資本剰余金のみを原資とする剰余金の配当:1億ドル」、「利益剰余金のみを原資とする剰余金の配当:5億4,000万ドル」として会計処理を行った(金額は概算)。
剰余金の配当について、法人税法23条(受取配当等の益金不算入)1項1号の規定は、「資本剰余金の額の減少に伴うものを除く」と規定し、24条(配当等の額とみなす金額)1項3号(本事案当時。現4号)は「資本剰余金の額の減少に伴うものに限る」と規定している。
つまりX社は、資本剰余金を原資とする剰余金の配当と、利益剰余金を原資とする剰余金の配当に区分した上で、上記のような処理を行った。
X社は、上記処理のまま平成25年3月期決算・申告を行ったが、京橋税務署長は、「本件の剰余金の配当は、それぞれの効力発生日が同じであることなどから、その全額が法人税法24条1項3号の資本の払戻しに該当する」として更正処分等を行った。
X社は、これを不服として提訴に及んだところ、一審・東京地裁平成29年12月6日判決は、(1)「利益剰余金、資本剰余金の双方が原資の配当は、資本配当(資本の払戻し)」として国側の主張を認めた上で、(2)「株式又は出資に対応する部分の金額」の計算方法を定める法人税法施行令23条1項3号(現4号)は、利益剰余金を原資とする剰余金の配当の額が「株式又は出資に対応する部分の金額」に含まれることとなる場合には、法の委任の範囲を逸脱した違法なものとして無効であると解するのが相当として、国側の処分を取り消した。
これに対し控訴審・東京高裁令和元年5月29日判決では、そもそも資本配当に係る決議書と利益配当に係る決議書とは別個のものである以上、私法上は別個の決議がされたと評価されること、本件資本配当はA社において減少させた資本を原資とするものであり、本件
利益配当はA社の留保利益を原資とするものであることは明らかであって、国側が指摘する決議日・効力発生日の同一性等の事情は形式的なものにすぎないことから、一審の上記(1)部分を取り消し、本件配当は「利益配当と資本配当という別個の配当」と断じた。
また、上記(2)部分については、施行令23条1項3号の定めが、資本剰余金及び利益剰余金の双方を原資とする剰余金の配当への適用に当たり、当該剰余金の配当により減少した資本剰余金の額を超える「払戻し等の直前の払戻等対応資本金額等」が算出される結果と
なる限りにおいて法人税法の委任の範囲を逸脱したものとして無効であるとして、一審の判断を維持した。
今回の最高裁判決では、上記(1)部分について原審・東京高裁判決は是認できないとした上で、以下のように判示した。
(a) 旧商法では「利益の配当」と「資本の減少」とを別個の手続としていたが、会社法では「利益剰余金を原資とする剰余金の配当」と「資本剰余金を原資とする剰余金の配当」とそれぞれ整理したため、両者は「剰余金の配当」という同一の手続により行われることとなった。そこで、平成18年改正後の法人税法においては、23条1項1号と24条1項3号の適用の区別につき、会社財産の払戻しの手続の違いではなく、その原資の会社法上の違いによることとされた。
(b) 剰余金の配当をその原資により区分すると、(イ)利益剰余金のみを原資とするもの、(ロ)資本剰余金のみを原資とするもの、(ハ)双方を原資とするものの3類型が存在するが、法人税法23条1項1号と24条1項3号の文理に照らせば、法人税法は資本剰余金の額が減少する上記(ロ)・(ハ)については24条1項3号の資本の払戻しに該当する旨を、それ以外の(イ)については23条1項1号の剰余金の配当に該当する旨をそれぞれ規定したものと解される。
したがって、利益剰余金と資本剰余金の双方を原資として行われた剰余金の配当は、その全体が資本の払戻しに該当するものというべきである。
さらに上記(2)部分については、株式対応部分金額の計算方法について定める法人税法施行令23条1項3号の規定のうち、資本の払戻しがされた場合の直前払戻等対応資本金額等の計算方法を定める部分は、利益剰余金及び資本剰余金の双方を原資として行われた剰余金の配当につき、減少資本剰余金額を超える直前払戻等対応資本金額等が算出される結果となる限度において、法人税法の趣旨に適合するものではなく、同法の委任の範囲を逸脱した違法なものとして無効というべきであると判断。
結果的に、本件更正処分のうち本件申告額を超える部分は違法として、納税者の勝訴が確定した。