賃料収入は販売事業の副産物と判断、課税処分を取消し(エー・ディー・ワークス事件)
東京地裁令和2年9月3日判決
---------------------------------------------------------
富裕層向けの投資商品としてマンションを販売していた事業者が、消費税の仕入税額控除の計算上、個別対応方式を採用し、販売用マンションの購入費は「課税売上げにのみ要する課税仕入れ」として処理していたところ、課税庁は「仕入れたマンションには現に入居人がおり、住宅の貸付けも目的としているから、共通対応課税仕入れに区分すべき」として否認。東京地裁は、住宅貸付けによる賃料収入は販売事業の副産物として位置づけられるため、共通課税仕入れには該当しないと判断、課税処分を取り消した。
---------------------------------------------------------
不動産の売買・仲介業務等を営むX社は、中古の賃貸用マンションを仕入れ、(a)リノベーション(物件の改良)、(b)マネジメント(物件を良好な状態に管理)、(c)リーシング(物件を適正な賃料で貸し付けて空室を減らすこと)等の方法により「バリューアップ」した上で顧客に転売する事業を行っていた。仕入れたマンションは84棟に及び、いずれも課税仕入れを行った時点で入居者に貸し付けられている状態であった。
X社は平成27年3月期~平成29年3月期の課税期間における消費税等の確定申告で、個別対応方式を採用した上、各マンションに係る仕入れを「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」として仕入税額控除の計算を行った。
これに対し麹町税務署長は、仕入れたマンションは将来の転売に要するものであるとともに、住宅の貸付けにも要するものであるから、用途区分は「共通対応課税仕入れ」とすべきであるとして、X社に対し更正処分と過少申告加算税の賦課決定処分を行った。X社はこれを不服として提訴した。
裁判で国側は、用途区分の判定に当たっては、将来の多様な取引のうちどのような取引に要するものであるのかを客観的に判断すべきであり、事業者における過去の同種の課税仕入れ等の状況や事業内容、一連の事情等から考察される課税仕入れの意図・目的、その後に予定されているといえる取引の内容といった事情を考慮して行うのが相当と主張。
一方、X社は、用途区分の判定は事業の最終的な目的に基づいて判断すべきであり、仮に副次的に得る対価があったとしても、その判断を左右しないと反論。本件課税仕入れは「将来の転売を行わないのであれば、そもそも課税仕入れを行わなかった」といえるのであるから、課税売上げにのみ要する課税仕入れに区分されると強調した。
東京地裁は、課税仕入れ等が事業者による経済活動の一環として行われるものである以上、将来における一定の取引を目指したものということができ、実際に課税仕入れ等に対応するどのような取引が行われたか(あるいは行われなかったか)を見るまでもなく、課税仕入れ等がどのような取引を目指して行われたかを見れば、用途区分を判定するのに十分であると指摘。
その上で、上記(a)~(c)のようなビジネスモデルは、事業者が中古の賃貸用マンション等の収益不動産を購入し、適正な賃料で貸し付けて空室を可能な限り減らして顧客に転売するというものであり、将来における収益不動産の売却のために行われたものであることは明らかであるとした。にもかかわらず、本件賃料収入の位置付けや売上げ全体に占める割合その他の個別の事情を一切考慮せずに、将来の賃料収入が確実に見込まれるというだけで常に共通対応課税仕入れに区分すべきものと解するとすれば、経済実態と著しくかい離するおそれがあるにとどまらず、税負担の累積の排除という消費税法の目的等に照らしても、問題が生ずるといわざるを得ないと判示。
本件賃料収入は、収益不動産の販売を行うための手段としての賃貸から不可避的に生じる副産物として位置付けられるものと判断し、X社の請求をすべて認容した。
関連判決
https://www.horei.co.jp/zjs/information/detail.html?t=Topics&id=3798