「税理士によるマインドコントロールで帳簿不提示」は認められず
東京高裁令和2年8月26日判決
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課税庁からの再三にわたる調査要請を拒否し続けた納税者に対し、仕入税額控除を否認する旨の課税処分が下された。納税者は、帳簿の不提示を不保存とすることは条文の拡張解釈であるとともに、顧問税理士にマインドコントロールされていたなど、調査に応じ難い正当な理由があったと主張したが、東京高裁は、帳簿の不提示は不保存に該当すると判示し、納税者の請求を棄却した一審・東京地裁の判断を支持する判決を下した。
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遊戯場の経営等を行うX社に対し、平成26年2月、課税庁調査担当者が同社の事務センターに臨場し、税務調査の要請を行った。しかし、事前通知がなかったため、X社の税務代理人であるA税理士はこれを拒否。
以後、平成27年5月までの約1年4か月の間、再三にわたる調査要請もすべて対応を拒み続け、ついに平成27年6月、課税庁はX社の平成24年6月期~平成26年6月期までの消費税等について、仕入税額控除を否認する旨の総額約38億円の更正処分等を行った。
X社はこの処分を不服として提訴に及んだ。
一審の東京地裁令和元年11月21日判決は、事業者が帳簿及び請求書等を整理し、これらを所定の期間及び場所において、税務職員による検査に当たって適時に提示することが可能なように態勢を整えて保存していなかった場合は、「帳簿等を保存しない場合」に当たり、仕入税額控除は適用されないというべきであると判断、課税処分を適法と認めた。
X社は控訴審で、次のような補充主張を行った。
(1) 消費税法30条7項の「保存」に「提示」が含まれるとするのは拡張解釈であり、課税機関の調査の態様が提示の求め方、相手方、期間、回数、納税者側の都合、提示拒否の理由・仕方等、様々であり、いかなる場合に「保存しない場合」に該当するのかは極めて不明確であるから、そのような拡張解釈は課税要件明確主義に反する不当なものである。
(2) 先例である最高裁判決の事例は、いずれの納税者も調査担当者から再三にわたり丁寧に仕入税額控除否認の仕組みの教示を受けた上で帳簿等の提示に応じなかったのであり、そのような説明教示が十分にされず、不意打ち的に仕入税額控除が否認された本件とは事案内容を全く異にしている。
(3) A税理士その他の税務代理人は、X社代表者に対し、税務調査に応じなくても何ら問題はない旨述べ、代表者を欺罔し、錯誤・誤認に陥れ、代表者はA税理士のマインドコントロール下にあった。また「さっさと調査を受けたい」との代表者の意向に反した対応を課税庁に対し行ったことは、税務代理人が納税者本人の真意・移行に反して帳簿等の提示を拒否したものであるから、提示の求めに対し「応じ難いとする理由」があったというべきである。
これに対し東京高裁は、X社の請求には理由がなく棄却すべきと判断した上で、上記補充主張については以下のように判示した。
(1) 申告納税制度の趣旨及び仕組み並びに消費税法30条7項の趣旨に照らせば、「保存」には「提示」が含まれると解するのが相当である。
(2) 本件については、調査担当者による帳簿等の提示の求めに応じ難いとする合理的理由はなかったにもかかわらず、X社が帳簿等の提示を拒み続けたと認められるため、課税庁職員による帳簿等の検査に当たって適時にこれを提示することが可能なように態勢を整えて保存していたといえないとしたものであって、本件各最高裁判決と事実関係の詳細は異なるとしても、合理的理由なく帳簿等の提示を拒み続けたという点では基本的な事実関係を共通にするものといえるため、X社の主張は採用できない。
(3) 本件調査における帳簿の不提示は、これがA税理士の指導によるものであったとしても、それ自体、すべてX社代表者の了承によるものであり、本件調査における帳簿等の不提示はX社の真意に基づくものではないとはいえない。また、「A税理士にマインドコントロールされていた」との主張が消費税法30条7項の適用を妨げるべき事由となるとはいえず、帳簿等の提示の求めに対し「応じ難いとする理由」となるものとはいえない。