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注目判決・裁決例(東京地裁令和2年11月6日判決)

2021年04月30日
経営者による債務免除は「異常な利益」に当たると判断
東京地裁令和2年11月6日判決
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取締役が会社に対する求償債権を免除したことにより、会社側が利益を享受したとして、取締役の滞納国税に関する第二次納税義務が課された。会社は、第二次納税義務の対象となるのは「異常な利益」の供与があった場合のみだが、本件の場合は再建計画に基づくもので「異常な利益」とはいえないと主張。東京地裁は、本件求償権の免除は「異常な利益」に該当すると判断、課税処分は適法とした。
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酒類の製造・販売業を営むX社は、平成25年頃から経営不振に陥ったため、県の中小企業再生支援協議会に企業再生の相談をし、代表取締役甲と取締役乙の所有不動産を売却して借入先金融機関に弁済するよう指導を受けた。
甲・乙は協議会の指導のとおり、平成27年7月、X社の借入先金融機関に対し計約4,100万円の債務を代位弁済し、X社からの借入金計約1,100万円を控除した残額の計約3,000万円の求償債権をそれぞれ免除した。
平成29年9月当時、甲と乙は所得税と相続税及び延滞税、利子税等の国税に関し、計約3,000万円を滞納していたが、課税庁はX社が甲・乙の債務免除により利益を受けたとして、甲・乙の滞納国税に係る第二次納税義務の納付告知処分をX社に対して行った。X社はこの処分を不服として提訴した。

主要な争点は、甲・乙による求償債権の放棄が国税徴収法39条に規定する「債務の免除」に該当するか否か。
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(無償又は著しい低額の譲受人等の第二次納税義務)
第39条 滞納者の国税につき滞納処分を執行してもなおその徴収すべき額に不足すると認められる場合において、その不足すると認められることが、当該国税の法定納期限の1年前の日以後に、滞納者がその財産につき行つた政令で定める無償又は著しく低い額の対価による譲渡(担保の目的でする譲渡を除く。)、債務の免除その他第三者に利益を与える処分に基因すると認められるときは、これらの処分により権利を取得し、又は義務を免かれた者は、これらの処分により受けた利益が現に存する限度(…略…)において、その滞納に係る国税の第二次納税義務を負う。
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X社は、徴収法39条の立法趣旨に鑑みれば、無償譲渡等の処分とは、詐害行為となるような第三者に対する「異常な利益」の供与を指すが、実質的にみてそれが「必要かつ合理的な理由」に基づくものであると認められるときは無償譲渡等の処分に該当しないと解するべきとした上で、本ケースは協議会の指導による再生計画に基づき、経営者責任の履行として代位弁済及び債務免除をしたものであって、X社に対し「異常な利益」を与えるものではなく、「必要かつ合理的な理由」に基づくものであるから、徴収法39条の「債務の免除」には当たらないと主張した。

これに対し東京地裁は、本件代位弁済及び債務免除は、X社の企業再生に当たって、各金融機関からの金融支援を受けるための前提として、甲・乙がX社の経営者責任を履行するという趣旨が含まれていたことは認められるものの、甲・乙が履行したとされる経営者責任とは、役員の会社に対する損害賠償責任等の法的責任ではなく、あくまで社会的責任であると指摘。
そうすると、本件債務免除においては、それがX社の選択した企業再生の手続にとって事実上必要なものではあっても、実質的な対価関係があるなどと認めることはできず、「異常な利益」を与えるものではないというX社の主張は採用できないと判断。さらに「必要かつ合理的な理由」に基づくものでもないとして、本件債務免除は徴収法39条の「債務の免除」に該当するとして、X社の請求を棄却した。