暴力団への上納金のうち総裁の取り分は個人所得に該当
福岡高裁令和2年2月4日判決
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業者等から暴力団に上納された資金のうち、一定割合で分配され特定の口座に定期的に入金されていた金銭が総裁の個人所得に当たるとして、暴力団総裁とその共謀者が所得税の虚偽申告・ほ脱で検挙された。裁判所は多くの間接証拠から、実質的に総裁の個人所得であったと認定。総裁と共謀者を懲役刑の実刑に処した。
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X1は暴力団四代目N3會会長・五代目N3會総裁。またX2は、N3會総務委員長である。
X1は、X1の預貯金等を管理していたX2と共謀し、建設業者等からN3會に上納された資金(上納金)から収入を除外し、X2名義やX2の親族名義の口座に留保するなどの手法により所得を隠匿した上、平成22年~平成26年の所得税について虚偽過少の申告をし、合計3億2,000万円あまりをほ脱したため、X2ともども逮捕された。
一審でX1は、上納金からの分配金のうちX2名義の口座等への入金についてはN3會に帰属するものであり、X1の所得に当たらない等と主張した。
これに対し一審は、関係証拠に照らすと、X2名義の口座等から出金がなされるのと同時期にX1の預貯金が増えているほか、少なくとも絵画・自動車・不動産を購入しているなど、ほぼ同額の個人資産が増加していること等、数多くの間接証拠から実質的にX1の所得と認定。
X1らがX2及びX2の親族名義の口座等を複数用意し、適宜切り替えながら長期間にわたり巧妙に所得秘匿をしたことから、X1を懲役4年及び罰金1億円、X2を懲役3年6月の実刑に処した。
これに対しX1は、課税実務においては通常、ほ脱額を認定する場合、広範な反面調査によってほ脱額を詳細に認定するものであるところ、一審では反面調査を行わず、限られた範囲の資料・事実に基づきほ脱額を認定したことは著しく不平等であり、憲法14条、30条、31条に反し違憲である等として、控訴に及んだ。
控訴審は、一審はX2名義の口座等の特定の口座に一定比率(上納金の3割)で入金された金額をもってほ脱所得と認定しており、その認定手法自体に違憲、違法な点があるとはいえず、そもそも特定の口座に入金された金銭の性質や帰属を認定するに当たり、全てについて何らかの資料によって認定する必要はなく、原審の認定手法自体に租税平等主義や適正手続等に反する点はない等として、控訴を棄却した。
なお、X1はこの判決をなおも不服として上告したが、最高裁は令和3年2月16日付で上告を棄却する決定を下しており、本件は確定している。